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【コラム】海外通信員

また新星が誕生? 連続3回パリを苦しめた若者

[ 2018年1月24日 15:30 ]

リヨンのMFタンギ・ヌドンベレ
Photo By AP

 リーグアン(L1)試合のマン・オブ・ザ・マッチには、透明ガラス製の美しいトロフィーが贈られる。ところが最近、このトロフィーが奇妙な扱いに遭遇している。

 目が点になったのは、1月17日(第21節)のネイマールだ。

 ネイマールはこの日、ディジョン相手に4ゴールを叩き入れて完璧な試合を披露(チームも8−0で大勝)。マン・オブ・ザ・マッチに選ばれて、翌日の「レキップ」紙も異例中の異例とさえ言える「10」の採点をつけた。

 ところが当の本人は試合直後、汚いものでももらったようにぞんざいにトロフィーを受け取ると、テレビ前でのコメントを促そうとしたクラブ広報担当まで押しのけるようにして無視、真っ黒い目つきでさっさとピッチから去ってしまったのだ。

 チームメイトは手をつないでサポーターに挨拶していたのに、それもしなかった。それどころかネイマールは、スタジアム内の廊下に入るや否や、もらったトロフィーを誰かに投げ渡したというから、かなりすさまじい。アザだらけになって10年奮闘しても、この透明トロフィーを手にできない選手が大勢いるというのに・・・。

 このややおぞましい態度の理由はと言えば、自分がPKを蹴ろうとしたときにスタンドの一部から口笛が飛んだこと。「え、それだけ?」と言いたくなるが、そう、それだけ。

 口笛の意味は、反ネイマール感情でも何でもなく、単にファンの一部が「カバーニに蹴らせてやって」と思ったためだった。カバーニがあと1ゴール決めさえすればあのズラタン・イブラヒモビッチの通算ゴール大記録を打破できるという、歴史的瞬間だったからなのだ。

 だがネイマールは完全に気を悪くしてしまったらしい。

 もっとも、次の透明トロフィーエピソードは、やや趣を異にしていた。1月21日(第22節)のナビル・フェキールである。

 この日、激戦の末ホームでパリSG(PSG)を下したリヨン(2−1)。そのキャプテンだったフェキールは、試合開始後2分に驚異の36メートル直接FKをバナナシュートで決めるなど華やかに活躍し、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 ところが本人は、どこか困惑気味。試合後のテレビインタビューにはかすれ声で答えたものの、トロフィーは斜め前に置かれたままで、まるでわざと見ないようにしているかのようだった。

 その理由は、マン・オブ・ザ・マッチは自分ではなくタンギ・ヌドンベレだ、と思ったことらしい。さすがに最後はトロフィーを渡されて、大事そうに抱えて去って行ったが、このキャプテンの態度にはみなが同感したようだった。ヌドンベレの活躍がそれほどにすごかったからだ。

 パリ南郊のロンジュモーで生まれたタンギ・ヌドンベレは、まだ21歳の若者。昨シーズンはまだ2部リーグのアミアンにいて、やっとシーズン末にアミアンとともにリーグアンに昇格したばかりの無名選手だった。

 彗星のようにリヨンに現れたのも、メルカート閉幕寸前の2017年8月31日。以来、リヨンでの出場回数はまだ16試合で、先発に至ってはわずか12回だ。それなのにヌドンベレは、PSGを相手にした直近3試合で3回とも敵を苦しめたのである。

 1回目はまだアミアンにいた8月5日(第1節)。アミアンが敗けたとはいえ、天下のパルク・デ・プランスを舞台に大活躍して(2−0)、人々をあっと驚かせた。リヨンが目をつけたのもこのときだった。

 2回目はリヨン入団後まもない9月17日(第6節)。最後はやはり敗けたが、まだ同点だった68分にパワフルなミドルでバーを叩き、やはりパルクでパリを脅かした。

 そして3回目の2018年1月21日。そこには、ヴェラッティ、ラビオ、ロ・チェルソのパリ中盤を苦しめ抜き、ボールを奪取しまくっては、敵のラインを破壊、上がって攻撃にも絡むヌドンベレの雄姿があった。

 なんと現時点でヌドンベレは、ドリブル成功率でリーグアン1位。同じリヨンのフェキールも、パリのネイマールも、マルセイユのフロリアン・トーヴァンも抜いているのである。もちろんポジションが違うため同タイプのドリブルではないし、ドリブル合計回数の話でもない。だが肝心の成功率でヌドンベレが上なのだ。

 このままいけば、また新星の誕生となるかもしれない。

 そう言えば経歴も、どこかマイケル・エッシェンに似ている。スモールクラブ(バスティア)からリヨンにやってきて、あっという間に巨星に成長、3800万ユーロという当時としては驚異的な額でチェルシーに移籍して行ったモンスターである。

 プレースタイルも、エッシェン風ボックス・トゥー・ボックスと言えるかもしれない。凄まじく動いて敵の足元からボールを徹底奪取、パワフルに上がって、時おり豪快にミドルも撃つ。

 試合後の「カナル・フットボール・クラブ」(カナル・プリュスの人気番組)では、有名レギュラーのピエール・メネーズがこう太鼓判を押した。「彼の前に巨大なキャリアが待っているのは間違いないね!」

 フランス代表にはカンテ、ポグバ、ラビオ、トリソらがひしめくため、すぐ浮上するのは難しいかもしれないが、リヨンで成長して外国に大きく羽ばたく選手は後を絶たない。フランス人ヌドンベレの今後に要注目である。いずれにせよ2位に浮上したリヨンは、新たな武器を手にしたようだ。(結城麻里=パリ通信員)

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