×

【コラム】海外通信員

ブラジル対日本 ブラジルメディアの評価は?

[ 2017年11月15日 22:00 ]

国際親善試合   日本1―3ブラジル ( 2017年11月10日    フランス・リール )

<日本・ブラジル>競り合う日本代表MF長谷部とブラジル代表FWジェズス
Photo By スポニチ

 「VAR判定で得たPKでネイマールが先制を決め日本との楽勝試合の幕が開けた!」試合翌日のランセ紙の見出し

 ブラジル対日本戦はブラジル時間で金曜日午前10時キックオフだった。ただでさえ、一般ブラジル人はW杯以外では、それほどセレソンに熱狂しているわけではないので、ブラジルの平日の午前10時、場所は欧州大陸で行われた試合は、まったく人々の関心を集めるものではなかった。試合があることさえ知らなかった人が多かったくらいだ。

 日本からしてみると、数年に一度訪れる世界最高峰との一戦で日本代表の立ち位置を確認できる、ネイマールと対戦できると期待があったのは当たり前で、日本側の金曜夜9時のゴールデンタイムに試合時間が設定されていたのも当然。

 ほとんどの選手が海外でプレーするブラジル代表にとってあ親善試合は欧州で行われることが多く、時差の関係上ブラジルのゴールデンタイムでない時間の試合が多く、注目度は対戦国が日本に限らず、低くなってしまうものだ。

 そうは言っても、試合後もまるで日本との試合などなかったかのような扱いというのはちょっと悲しい話しだ。

 試合内容についての激論があるわけでもなく、最も注目を集めたのは、試合後の記者会見で『ネイマールが泣いた』ことだった。日本代表の選手評などまったく話題にもならなかった。せいぜい吉田のファウルが新たに取り入れられたVARで初めて裁定が下ったこと、吉田のファウルがいかに無駄なファイルだったことくらいか。ちなみに吉田はランセ紙の評価で10点満点中3点と日本代表で最低点がつけられていた。

 また、槙野が11年ぶりにブラジル相手に得点を決めたとは誰もわかっていないし、重要な話題ではないみたいだ。もちろん、あのゴールはブラジルDFジェメルソンのミスから生まれたもので、ブラジルDFを上回った槙野には賞賛が与えられるべきなのだが。ちなみに槙野は10点満点中の6点。GK川島の6.5に次ぐ高い点がつけられていた。

 ブラジル側が日本代表に興味が少ないのも事実だが、それ以上に、チッチ監督のチーム作りがうまくいっているから、こと細かく試合が討論の対象にならなかったのも事実だ。セレソンをどん底に落としたと言われるドゥンガ監督から、あっという間に世界ランキング1位に返り咲かせた名将は高く評価され、批判は少ない。ほとんどないと言っても良いくらいだ。国民からの絶対的な支持を勝ち得ている。

 チッチは南米予選の終盤は、すでにロシアW杯本選を見据えて選手選考、戦術を練っていたのだが、今回はテストで選手交代をした後半がうまく機能しなかったのだが、機能しなかったことがわかったことが収穫であった。

 そして、日本戦に注目が集まらなかったもう一つの要因は、国内事情だ。ブラジルではカンピオナート・ブラジルレイロ(ブラジル全国リーグ)が終盤にもかかわらず、優勝を決めたいコリンチャンスからGKカッシオ、2部落ちの危機にあるエスポルチからジオゴ・ソウザを召集し、国内の事情を考慮しなかったCBF(ブラジルサッカー連盟)のやり方に批判が出るほど、国内のサッカーシーンがセレソンを話題を奪っている。日本戦でGK交代のことを日本をなめてる、屈辱と思ったのかもしれないが、わざわざコリンチャンスからカッシオ連れて行ったのに、使わなかったとなると批判はもっと高まる。既に勝ちが見えていたから安心してGK交代をしたこともあるが、カッシオを試合でテストすることは必要だったのだ。チッチにとって大きな収穫だった。ちなみにカッシオは第3GKというが、オランダでプレーの経験もあり、リベルタドーレス杯、クラブW杯優勝GKであり、コリンチャンスの正GKとして現在ブラジルでプレーするナンバー1GKである。決して、日本を屈辱に貶めるようなレベルの選手でない。

 「日本とブラジルの差は縮まるどころか広がっている」と本田選手がコメントしたというが、確かにそうかもしれない。

 ここ10年ほど欧州サッカーは南米よりも優勢を誇っているのは事実だ。世界中から優秀なプレーヤーを集め、ビジネス的成功は南米など足下にも及ばない。日本人で欧州リーグで活躍する選手も増えた。

 しかし、コンテンツを見てみれば、結局、ブラジル人、アルゼンチン人など南米人がいない欧州サッカーシーンはあり得ないのだ。2014W杯でブラジルはドイツに7-1で負けたが、それがブラジルサッカーの後退を意味するような単純な話しではない。

 フランス、スペインはW杯に一度だけ優勝している。フランスもスペインも選手層のサフラ(作物)がいい時は勝てたが、ブラジルは年ごとに多少の出来は異なるが、一貫して豊作が続いている。以前はチームに3、4人のクラッキがいたが、今はネイマールだけと言われてきたが、ガブリエウ・ジェズス、マルセロ、ダニ・アウヴェス、コウチーニョ、カジミーロ、パウリーニョ、チアーゴ・シウヴァ、マルキーニョス、ウィリアンという顔ぶれは豊作作物と言わずして何と言おう。マルセロは10年間、レアル・マドリッドでプレーしている。現在もスタメンだ。

 そんな豊作の作物たちが、チッチという名指揮官の下、チームとしてまとまっているのだ。戦略、戦術を相手に合わせて巧みに使い分け、強いはずだ。簡単に日本が追いつける相手ではないままだ。

 さて、記者会見でチッチを押しのけ主役の座についたネイマールには同情よりも、メンタルを鍛えろとアドバイスが聞こえている。有名になればなるほど、やっかみや嫉妬との戦いにも自分をコントロールして立ち向かわなければならない。ネイマールに課せられいる課題なのだ。ちなみに日本戦でのネイマールの評価は6.5点。同じようにゴールをマークしたマルセロの7.5、ガブリエウ・ジェズスの7.0には及ばなかった。(大野美夏=サンパウロ通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る