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【コラム】海外通信員

新ユニフォームで揺れるスペイン 笑えない冗談

[ 2017年11月8日 16:00 ]

 11月7日、スペイン代表のユニフォームサプライヤーであるアディダスが、ロシア・ワールドカップ(W杯)で着用する同代表チームのユニフォームを発表した。そのデザインは、1994年アメリカW杯のユニフォームを模したもので、片側にひし形を連ねた縦線が3本(左からイエロー、ペトロールブルー、ディープレッド)入っている。が、その視覚効果によって、ペトロールブルーが遠目ではパープルに見えてしまうことで物議を醸すことになった。

 レッド、イエロー、パープル……。その組み合わせはスペイン国王アルフォンソ13世が退位し、フランシスコ・フランコが独裁制を敷くまでに続いたスペイン第二共和制の国旗の色である。スペインサッカー連盟(RFEF)の会長フアン・ルイス・ラレラは「紫ではなく青だ。汗で濡れたと気にも、その青は維持される」と強調していたが、確かに一見するとディープレッドに隣り合わせのペトロールブルーはパープルに見え、まじまじと見て青い色をしていると認識できるレベルだ。

 このペトロールブルーがパープルに見える現象に歓喜するのは共和制に共感する左翼政党だ。ポデモス党首パブロ・イグレシアスは「スペイン代表が、これほど美しいユニフォームを着るのは久しぶりだ」と語れば、統一左翼(IU)党首アルベルト・ガルソンが「スペイン代表のユニフォームは、もちろん意図的ではなく単なる偶然の産物だ。が、誠に素晴らしい」との見解を示す。対して、中道右派の思想を持つ市民党のスポークスマンは「本気なのか」と疑問を呈した。

 REFEのラレラ会長は現在、この騒ぎの対応に追われている。1991年から代表チームのユニフォームサプライヤーを務めるアディダスが常に「最善の意図」でもってデザインを決めているとしながら、しかし「最も上からの不満も届いている」とスペイン中央政府からも苦情があったことを認める。さらには「台風が過ぎるまでは前のユニフォームを使用し続ける」ことも否定しなかった。

 現時点で確定しているのは、これまで大々的に行われてきたユニフォーム発表イベントが中止となったこと。ユニフォームを着用した選手たちがヘリコプターで降り立つプランもあったようだが、それが一度練習で着用するだけのお披露目となってしまった。

 ワールドカップで使用するユニフォームは、大会開催の18カ月前から準備を進めるという。だがユニフォームをデザインするアディダス、そしてそのデザインの可否を決めるRFEFのどちらも、なぜ問題が生じる可能性を察知できなかったのか……。いずれにしろ、カタルーニャ州の独立問題で揺れ続けるスペインで、笑えない冗談のようなことが起こってしまった。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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