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【コラム】海外通信員

Wanda Metropolitano
アトレチコの新スタジアム ワンダ・メトロポリターノ

[ 2017年9月24日 10:00 ]

アトレティコ・マドリードの新スタジアム、ワンダ・メトロポリターノ
Photo By スポニチ

 2017年9月16日、アトレティコ・マドリードの新スタジアム、ワンダ・メトロポリターノがこけら落としを迎えた。

 アトレティコにとってはレティーロ(1903年〜)、オドネル(1913年〜)、メトロポリターノ(1923年〜)、ビセンテ・カルデロン(1966年〜)に続く5つ目の本拠だが、スペインでは「欧州最高でなければ、最高のスタジアムの一つ」との評価を得ている。収容人数6万8000人(カルデロンは5万5000人)、スタジアム内に3つ設置されたLGの大型ビジョン、フィリップスの外観及び内観を染める16万色発光のLEDライト……。UEFAもこのスタジアムを評価し、2018〜19シーズンのチャンピオンズリーグ決勝開催地にも選ばれている。

 ただし、ワンダ・メトロポリターノは紆余曲折を経てようやくこけら落としを迎えていた。ことの始まりは2012年の五輪の開催地が決定する1年前にあたる2004年。マドリード市が1993年に建設されながらもほとんど使用されていなかったペイネタと呼ばれたスタジアムを、五輪会場にするプロジェクトを立ち上げたときである。ペイネタを五輪会場とした後の使用用途として、アトレティコの新本拠地になることは、その時点で既成事実となっていた。

 そして2006年の終わり、マドリード市は再び五輪招致に動き、その際にアトレティコ&スペインのビール会社マオウと、カルデロン及び近くにあるビール工場跡の土地を再開発することで合意した。計画されたのは、36階建ての2棟の超高層ビルを含めた2000人の居住地区。この再開発計画によってアトレティコはカルデロンの土地を高額で売却し、ペイネタの改築費を賄うだけでなく、1億ユーロを超える負債すら帳消しにできるともされた。

 しかし事態は、不動産バブルが弾けたことで一変する。カルデロンとマオウの工場跡の都市開発を担当するはずだった不動産会社の大手マルティネサ=ファデサが、債権者集会を招集して開発事業に取り組むどころではなくなった。そして建設会社大手のFCCがその後を引き継いだものの、アトレティコのクラブ会員の組織がカルデロン&ビール工場跡地の地区では8階建て以上の建物を建てるのは違法と訴えを起こし、勝訴。FCCもこの一件により再開発計画から手を引いた。

 スタジアム移転計画が頓挫しそうな状況に追い込まれたアトレティコだったが、予定通り計画を進めていくためにフォーブスの個人資産ランキングで1位にもなったメキシコの実業家カルロス・スリムの協力を得た。カルデロンの土地を抵当に入れて1億6000万ユーロを借り入れ、ペイネタの改築費に充てたのである。アトレティコは五輪招致が失敗に終わり、再開発計画の行く先が分からぬ状況で、自ら改築を進めることを決意したのだった。

 そうして改築工事を進めたアトレティコだが、問題はまだ増える。ペイネタの改築費、その周辺の整備などでかかる費用が3億1000万ユーロまで膨れ上がったのだ。アトレティコCEOのヒル・マリンはこの費用について、将来的なカルデロンの土地売却と、ワンダ・メトロポリターノで生み出す今後6〜7年分の収入で工面すると話している。「私たちが成長を続けるためには、近代的かつ世界の模範となる新たなスタジアムが必要だった」との言葉とともに。

 かくしてアトレティコは、リスクを負いながら欧州有数の一つのスタジアムを手にした。この移転にいまだ反対するファンもいることはいる。が、こけら落としの際に大多数の観客は新スタジアムの雄大さに喜びの顔を浮かべていた。併設されたアトレティコのオフィシャルショップは、その日に過去の記録の3倍となる20万ユーロの売り上げを叩き出し、その中でもTシャツなどのワンダ・メトロポリターノのこけら落としの記念品が最も多く売れていた。

 しかしアトレティコがこの新スタジアムを重荷とするのか、それとも自分たちにふさわしい舞台とするのかが分かるのは、これからである。ディエゴ・シメオネがチームを率い、これまで通りにチャンピオンズリーグ出場権獲得を最低限とする好成績を収めていけば、問題は何もないようにも感じるが。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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