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【コラム】海外通信員

サンパオリのプライオリティー

[ 2017年8月26日 11:30 ]

セリエA開幕戦で2得点を決めたイカルディは代表で結果を残せるか!?
Photo By スポニチ

 来たるW杯予選2試合(8月31日のウルグアイ戦と9月5日のベネズエラ戦)に向けて、アルゼンチン代表のホルヘ・サンパオリ監督は8月11日に招集メンバーを発表した。アルゼンチン国内では、6月に行なわれた親善試合(ブラジル戦とシンガポール戦)のために作成された最初の「サンパオリのリスト」からゴンサロ・イグアインが外れ、セルヒオ・アグエロが復帰したことが話題となっているが、私が注目しているのはマウロ・イカルディの招集だ。

 イカルディがアルゼンチン代表に値する実力の持ち主であることはここで説明するまでもなく、すでにサンパオリも親善試合のメンバーに彼を招集しており、今回のメンバーに選ばれたこと自体はサプライズでもなんでもない。ここで注目したいのは、イカルディ招集から「サンパオリのプライオリティー(優先事項)」がはっきりと見える点である。

 以前のコラムでも書いたように、イカルディはこれまで、ピッチ外の問題が原因で代表でプレーするチャンスを与えられない時期が続いていた。前任のエドガルド・バウサ監督はインテルのキャプテンとして第一線でプレーするイカルディよりも、中国で出場機会に恵まれていなかったエセキエル・ラベッシを選び、その前のヘラルド・マルティーノ監督に至っては「(イカルディがやったことは)私を含む全てのサッカー関係者にとって不快だった」と率直な意見を述べた。バウサもマルティーノも、代表メンバー選考にあたり「すでに結束したグループの和を乱さない」を優先していたことは明らかだった。
 (*イカルディがやったこと=元チームメイトのマクシ・ロペスの前妻ワンダ・ナラと結婚して仲むつまじく暮らす様子や、ワンダがロペスとの間にもうけた3人の息子をまるで自分の子どものように可愛がる様子をロペスに対するあてつけのような形でSNSを通じて見せびらかしたこと、ロペスとワンダの間の法的なトラブルに介入してひんしゅくをかったことなど。)

 だがサンパオリは、ゴシップ専門メディアが喜ぶ低俗なネタが、自分の描く構想の邪魔をすることを許さなかった。W杯予選の終盤、正確には残りわずか4試合という瀬戸際で指揮をとることになった立場として、イカルディの招集から、優先すべきは「ピッチ内で結果を出すこと」の一点であることを明確に示したのである。

 イカルディは先の親善試合のメンバーに選ばれたものの、右大腿筋の負傷からプレーできなかった。それでも遠征に帯同し、プレーの構想を聞き、練習に参加し、代表の選手仲間と一緒に過ごすという体験を経て、サンパオリ監督から絶大な信頼を得た。

 サンパオリ監督はこの時のイカルディについて「負傷から回復するまでバカンスをとるオプションもあったが、彼は代表遠征に参加することを選び、その間、毎日私の話に真剣に耳を傾けた。遠征中の彼の態度は非常にプロフェッショナルで、代表チームに対するコミットメントの意識の高さを示してくれた。これこそまさに私が選手に求める姿勢だ」と語っている。招集に浮かれ、メッシをはじめとするスターたちとの写真撮影に夢中になる選手もいる中で、イカルディは自分がそこで何をするべきかを理解し、意欲的で誠実な態度を示したのである。

 アシスタントコーチのセバスティアン・ベカセッセと共に、7月末から2週間にわたって欧州のクラブでプレーする代表選手及び候補を個別に訪問したサンパオリ監督。各選手用にそれぞれ準備した資料を使いながら、自分のアイデアとプレーのコンセプトを文字と映像で明確に伝えた。アルゼンチン代表監督が欧州にいる選手を訪ねて会談することは珍しくないが、サンパオリとベカセッセのように「出張作戦会議」を行なった前例はない。この熱心な姿勢を前に、選手たちも監督のプライオリティを理解したはず。イカルディを迎えた新生アルゼンチン代表のプレーに期待したい。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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