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【コラム】海外通信員

第二のバーディを見つけるスカウティングとは?

[ 2017年7月28日 05:50 ]

第2のバーディは見つかるか?
Photo By AP

 2シーズン前、イングランド・プレミアリーグを制したレスターシティの奇跡の優勝の立役者であるジェイミー・バーディの鮮烈な活躍は記憶に新しい。

 10代で地元プロクラブのアカデミーから放出され、プロ選手への夢をくじかれた経験を持つが、サッカー以外の仕事を続けながら7部、5部とステップアップ、当時2部のレスターシティに移籍、そしてプレミアリーグを制覇しイングランド代表にも選出され、まさしく映画のようなストーリーを築き上げた。

 バーディが、このほどノンリーグでプレーする選手のために共同経営者として1500万円近くの自己資金を投入してサッカーアカデミーを立ち上げた。

 先月初め、42人のノンリーグプレーヤーを集めて行われたトライアルでは26歳の工場勤務をしながら6部でプレーするダニーニュートンが4部クラブでのプロ契約を勝ち取ることに成功した。

 バーディの代理人を務め、本アカデミーの共同経営者であるジョン・モリス氏は、ノンリーグのプレーヤー達に多くの可能性が秘められていることをBBCのインタビューで答えている。

 「ノンリーグには、才能に溢れている選手たちがたくさんいる。クラブ側は、年齢制限などを理由にそれらの才能を見落としていた。プロクラブは育成枠としては、通常23歳までの選手しかスカウティングはしない。フィジカル面での成長が遅れた選手たちは、こぼれ落ちていく傾向にあった。しかしながら、我々はその幅を30歳まで広げてみたい。ノンリーグからプロ選手として成功を収める要因としては、下部リーグでの得点数は大きな指標になる。そして、なにより重要視しているのはプレーに対する意識の高さだ。ジェイミーは常にアトレティコマドリーのようなクラブで求められる献身性を見せてきた」

 バーディのような能力にあふれた選手が下部リーグにもっと存在するのではないだろうか。誰がその才能を見落としてきたのだろうかという議論は、英国内で少なからず起きている。

 英国北部に本社を置くIPSO(International Professional Scouting Organisation)は、スカウティングや分析の専門コースなど設けており、日頃プレミアリーグのチームで働いているスカウトマンやアナリストが講師を勤めている。先月行われた講座では、レスターシティのスカウティングを担当するスティーブ・シェア氏が登壇し、バーディを獲得したスカウティング秘話を披露した。

 「バーディは、5部で圧倒的な得点能力を発揮していた。獲得以前、彼が出場する3試合を分析したのだが、メモには次のように残っている。一人の力で状況を変えることができる、献身性、運動量の多さ、決定力の高さ、ゴールへの貪欲性、ファーストタッチのクオリティ、相手選手と口論にならないなどである」

 それらを事細かに文面化した上で、当時のノンリーグ選手への最高額での移籍金約1億8000万円を費やした。

 英国の育成年代では、生まれた月によって生じるフィジカル的な差をどのように克服できるのか、またバーディのような一度消えてトップレベルに戻って来た「ゴースト」的な存在である選手をどのように再発見し拾い上げるたるためのシステムの構築が行われようとしている。スカウティングマンは、これまでクラブ内での立場はそこまで重要視されることはなかった。そこには引退選手による個人の経験やサッカー観に頼る古典的なやり方が常にあったからだろう。しかしながら、個人の主観に頼るだけでなく、スカウティングメソッドを構築し、上のリーグで活躍できるかどうかを論理的に説明できる人材がこれからの時代に求められてくるだろう。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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