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【コラム】海外通信員

クラブ強化部と堂安がイメージ共有
堂安律 FCフローニンゲンを選んだ理由

[ 2017年7月15日 08:00 ]

オランダ1部フローニンゲンで初練習に参加し、地元ファンのサインに応じるMF堂安
Photo By スポニチ

 堂安律がガンバ大阪からオランダのFCフローニンゲンに加入した。契約は1年レンタルで、プラス3年の買い取りオプションが付いている。今回の堂安の移籍について、現地オランダの報道では”アヤックスやPSVも興味を示していた日本のタレント”という形容詞が使われていた。

 6月29日には、クラブで記者会見が行われた。その時の囲み取材の中で尋ねると堂安は「興味を示していたクラブは、7、8チームくらいあったと思います」と正直に話してくれた。「ドイツもありましたし、フランスもありましたし、ベルギーだったり、ロシアとかありました。いろんなところがあって、色々と考えることができた時期でもあったので大事な時期だったと思います」とはいえ「興味っていうんじゃなく、正式にオファーの紙が来たのは少なかった」という。「ただ、興味持ってくれているクラブに対して行きたいとプッシュすれば、オファーが出てきそうというクラブは、いくつかありましたけど。でもフローニンゲンが第一候補というのは決めていました」

 なぜ堂安はFCフローニンゲンを選んだのか。記者会見でもオランダ人記者から質問が飛んだ。

 「ルイス・スアレス選手やアリエン・ロッベン選手を輩出したっていう、育成面で本当に実績のあるクラブだなと感じたのが、まずは一番です」堂安の回答は明快だった。

 事実、ウルグアイ人のルイス・スアレスがヨーロッパでのキャリアをスタートさせた場所がFCフローニンゲンなのだ。スアレスはその後、アヤックス、リバプール、そしてバルセロナへとステップアップしていった。アリエン・ロッベンはフローニンゲンのユース出身だ。またこの夏、イングランドのプレミアリーグで移籍市場を賑わせている一人、サウザンプトンで吉田麻耶の同僚であるDFヴィルジル・ファンダイクもフローニンゲンのユース出身で、セルチックを経てサウザンプトンへと活躍の場を移している。輩出したのは彼らほどのモンスター級に育った選手に限った話ではない。

 例えば、ファンダイクと同じくサウザンプトンでプレーしている攻撃的MFデュサン・タディッチもまた、FCフローニンヘンで活躍して順調にステップアップしていった選手のひとり。また、2013年には攻撃的MFのレアンドロ・バクナがフローニンゲンから当時はまだプレミアリーグに所属していたアストン・ビラに引き抜かれている。ちなみに、現在のフローニンゲンのトップチームでプレーするジュニーニョ・バクナは、そのレアンドロ・バクナの弟だ。19歳のジュニーニョも攻撃的MFであり、クラブからタレントとして期待されている。このジュニーニョ・バクナと堂安の若武者二人が、今季のFCフローニンゲンの見どころでもあるのだ。

 この今年1月には、大器として期待されていた右サイドバックのハンス・ハテボールがセリエAのアタランタに移籍。現在進行形でFCフローニンゲンはより大きなリーグへとタレントを供給し続けているクラブなのだ。

 育成に実績のあるクラブであることは確なこと。ただ、堂安がFCフローニンゲンを選んだ理由はそれだけではない。

 オランダのサッカーが自分に合うと思った と軽く投げかけると、驚くほど明瞭な答えが帰ってきた

 「そうですね。オランダといえば4−3−3の、ワイドに開いているイメージがありますけど、このチームは4−2−3−1。サイドハーフが中に絞ってサイドバックがどんどんオーバーラップしていって、2ボランチと2センターバックがブロックを作っている。そんなイメージを、試合を見て思いました。中に入っていくプレーは自分の特徴だし、トップ下に入れば前にドンドン流れていくプレーができればなと思って、試合を見ていました。自分がプレーするイメージはしやすかったです」

 堂安は完全にFCフローニンゲンのサッカーを理解していた。会見の中で、ペーター・イェルテマ・テクニカルマネージャーが、「このチームは、4人のバック、その前にコントロールMFと守備的なMF、その前に3人のアタッカー、最前線にセンターフォワード。堂安は3人のアタッカーのポジションのどこでもプレーできる」と言っていた。クラブ強化部と堂安本人がプレーイメージをしっかりと共有できている。「戦術面でも、試合を見させてもらって、一番自分が活躍できるイメージがしやすかったクラブでした」それが、堂安がフローニンゲンを選んだもうひとつの理由だった。

 ちなみに、上述のピーター・イェルテマは、テクニカル・マネージャーを退くことになっている。移籍を実現させたテクニカル・マネージャーが変わるのは良くないようにも感じるかもしれないが、その後任がロン・ヤンスなのだ。2002年から2010年までの長期間FCフローニンゲンの監督を務めていた人物。現役時代、1987年から88年に日本サッカーリーグのマツダでプレーしていた経歴を持っている。日本と関わりを持っていた理解ある人物がクラブ強化部のトップに就くというのは、堂安にとって吉報だろう。

 FCフローニンヘンのホームスタジアムを見て、「やっぱり吹田のスタジアムに似てますね。違いは上をちょっと減らして、あとは色が緑色に変わったっていうくらい。だから、すごいやりやすいし、観客と選手が近いというのも、慣れているので」と堂安。そんなところにも色々と考慮した跡が見受けられた。

 もちろん、すべてがイメージ通りに進むということはないだろう。オランダのクラブであるFCフローニンゲンは、基本的に4−2−3−1でポゼッション率にこそ拘らないまでも、しっかりとパスを繋いで行くサッカーを標榜する。だが、オランダでも地理的に最北部に位置することと関係があるのか、ここ数年を見る限りこのスタジアムは芝の根付きが悪い。秋や春は良いが、真冬になるとピッチ状態が悪化し、やむにやまれずパスサッカーをある程度諦めて割り切ったサッカーをせざるを得ない状況になることがあった。今季も同じことにならないとも限らない。とはいえ、若い選手にとってはそれもまた良い経験になるだろうか。

 堂安は7月9日にアマチュアチームのvvアネンとの練習試合に後半開始から出場。FCフローニンゲンで試合デビューを飾った。45分間のプレーで、4−2−3−1のトップ下に入り、0−10で勝利した試合でチームの5点目と9点目を決めた。まずは2得点。堂安にとってはイメージ通りなのか。滑り出しは順調だ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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