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【コラム】海外通信員

スパレッティ 名門インテルを再建できるか

[ 2017年6月24日 05:30 ]

インテル・ミラノの指揮官に就任したルチアーノ・スパレッティ氏
Photo By AP

 5月末のセリエA最終節ローマ対ジェノア戦後に、ローマの象徴である主将フランチェスコ・トッティが今シーズンでローマのユニフォームを脱ぐことを宣言した。プロとして25年間、下部組織から数えれば28年間を地元のクラブに捧げたレジェンドの去就は、全国的、いや世界的な注目を集める話題となった。そしてその間、批判の対象となったのがルチアーノ・スパレッティ監督だった。

 昨季冬から古巣の監督に再就任。しかし、かつて2005年から3シーズン半の間で”ゼロトップ”戦術の要として重用していたトッティを、彼は主力として扱うことはしなかった。ただ、指揮官としては無理のないことだ。トッティにはスピードの面で目にも明らかに衰えが見られていたし、彼よりも若い選手の力を引き出すことも重要な仕事である。その結果、センター・フォワードとしてとして起用し続けたエディン・ジェコが今シーズンに得点王になった。見識が間違っていたわけではない。

 監督である以上、チームを最優先に考えなければならないのは当たり前のことである。「フランチェスコは偉大な選手。だが私は、彼が去った以後のことも考えなればならなかった」とスパレッティは発言していた。しかし地元の人々の多くは、彼の意図を支持はしなかった。トッティをベンチに置けば冷遇だと批判が上がり、「敬意を欠く」「彼はローマのことが何も理解できていない」などとファンやメディアから非難された。ジェームス・パロッタ会長らを始めとしたフロントもトッティに明確な意思表示ができたわけではなかった。実質的にはスパレッティがマネジメントを考えなければならなかった中、雑音の大きいローマで仕事を続けるのは決して簡単ではなかった。クラブを2位に押し上げ、UEFAチャンピオンズリーグへのストレートインへと導いたが、それを手土産にローマを去った。

 そしてスパレッティは6月、インテルの監督に就任した。かつてローマで共に仕事をしていたワルテル・サバティーニがインテルを所有する蘇寧グループのテクニカル・コーディネイターに就任した頃から噂になっていたが、もっともここの状況も複雑である。サバティーニは蘇寧グループの意思決定に近いところにいるが、本拠は中国に置き仕事をする。一方でミラノの現場にはピエロ・アウジリオ強化部長以下の別働隊があり、指揮系統が分断されるリスクもある。オーナー企業側がチェルシーのアントニオ・コンテ監督の招へいに大型の条件提示をしていたことも報道などを通じて明らかにされている。こういう環境で、チームを切り盛りしていかなければならない。苦労は多そうである。

 もっとも、スパレッティ監督も周到な準備をしているようである。14日に行われた就任発表記者会見の中では自身が率いたことのない長友佑都についての質問もすらすらと答えていたが、アウジリオ強化部長らとともに現有戦力についてのディスカッションをきちんとこなしていたことの証拠だ。「プライオリティとするべきはチーム。個人の力でチームは勝つものではない」と力説していたが、悩める名門をその言葉どおりに立て直すことができるのか注目である。(神尾光臣=イタリア通信員)

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