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【コラム】海外通信員

サンパオリのリスト

[ 2017年5月28日 06:00 ]

アルゼンチン代表監督就任の正式発表が近いサンパオリ
Photo By スポニチ

 去る5月19日、6月に予定されている2つの親善試合に向けたアルゼンチン代表の招集リストが発表された。9日のブラジル戦(会場メルボルン)、13日のシンガポール戦(シンガポール)に出場するメンバーのうち、まずは海外のクラブでプレーする20人のリストが公表され、これまでチームに属していなかった新しい顔ぶれが話題となっている。

 代表新監督の発表を待たずに招集リストが出されたのは、AFA(アルゼンチンサッカー協会)設立以来初めてのこと。4月10日に前任のエドガルド・バウサが解雇された直後から、AFAはホルヘ・サンパオリと水面下で監督就任に向けて話を進めていたが、サンパオリがまだセビージャとの契約を残しているため、現時点でも公に「就任決定」扱いすることが不可能となっている。AFA側からの説明によると、招集リストは同協会の理事メンバーであり代表チーム部門を担当するフアン・セバスティアン・ベロンが作成し、サンパオリの承諾を経て決定、AFAが署名して公表に至ったということになっているが、それはあくまでも表向きの説示。8月のW杯予選に照準を絞った今回の「予行演習」のために選手を選んだのがサンパオリであることは100%明確だ。

 事実上「サンパオリのリスト」となる今回の招集メンバーの中で、まず注目すべきはやはりマウロ・イカルディだろう。ピッチ外でのトラブルが原因で、チームの中核メンバーから煙たがれているとされていたイカルディだったが、得点力不足の打開策として不可欠なFWとしてついに代表復帰を果たすことになった。

 招集が明らかになったあと、トラブルの原因でもあるイカルディの妻ワンダ・ナラは自身のインスタグラムにイカルディと長女フランチェスカの写真を投稿し、そこに次のようなメッセージを添えた。

 「人の運命を変えることは不可能。神さまは耐える者に完璧なプランを用意してくれている」夫マウロが我慢強くチャンスを待ち続けたことを神はよく知っていて、代表入りは変えようのない運命だったという意味だ。

 イカルディと同じくセリエAでの活躍が認められ、今回初めて代表に呼ばれたのがレアンドロ・パレデス。ボカ・ジュニオルス在籍時は大先輩であるフアン・ロマン・リケルメの後継者としてエンガンチェ(トップ下)のポジションでプレーしていたが、現在ASローマではボランチのポジションを任されて高い評価を得ている。U,−15とU−17のメンバーとしてアルゼンチン代表のユニフォームに身を包み国際大会に出場していた経験があるものの、U−20では当時の監督から過小評価され、招集されることはなかった。

 「このチャンスを最大限に活かしたい。招集されることは夢だったし、こんな機会は毎日訪れるものではないからね」。ボカではリケルメから、ローマではフランチェスコ・トッティから多くを学んだというパレデスは、希薄な中盤に安定をもたらす存在として期待されている。

 その中盤に、今回一番のサプライズ招集となった選手がひとりいる。アルゼンチンでもほとんど無名の23歳、ギド・ロドリゲスだ。

 リーベルプレートの下部組織出身のロドリゲスは2014年、当時の監督ラモン・ディアスによって1軍でデビューするも継続的に出場機会を得られず、昨年1月、デフェンサ・イ・フスティシアにレンタル移籍。デフェンサの監督だったアリエル・ホラン(現インデペンディエンテ監督)から「まるでシャビ・アロンソかトニ・クロースのよう」と絶賛されて真価を発揮、同年6月からメキシコのティフアナに移籍していた。

 このロドリゲスをサンパオリに推薦したのが、ホランの後任として現在デフェンサの監督を務めるセバスティアン・ベカセッセである。ベカセッセは今から15年前の02年、21歳の若さでサンパオリのアシスタントに就任し、その後サンパオリのもとでヘッドコーチとして経験を重ねた実績を持つ戦術家で、すでにサンパオリからアルゼンチン代表の指導陣に加わるように勧誘されている。招集リストには国内のクラブに所属する選手7人が入ったが、この国内組の選択にはベカセッセの助言が役立っているようだ。

 今回の招集からはセルヒオ・アグエロが外れているものの、今後のパフォーマンス次第ではもちろん復帰の可能性はある。だが、今をときめくパウロ・ディバラや前述のイカルディ、そしてアタランタで得点を量産中のアレハンドロ・ゴメスらが名を列ねるFW陣営のポジション争いがこれからますます過酷になることは必須だ。

 W杯予選は泣いても笑っても残り4試合。この「サンパオリのリスト」をもとに、アルゼンチン代表がどのようなチームに生まれ変わるのか、注目したい。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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