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【コラム】海外通信員

戦術家監督の下 久保は試行錯誤して成長を続けている

[ 2017年5月19日 06:05 ]

プレーオフ・シャルルロワ戦の前半、PKを決めるヘントの久保
Photo By 共同

 ヘントの久保が好調を維持している。5月14日のヘント対シャルルロワ戦ではPKを決めて、10得点目。冬にベルギーにやってきて、出場15試合で二桁得点に乗せた。久保の得点シーン以外のポジションや役割について少し言及したい。

 ヘントのヘイン・ファンハーゼブルーク監督は一昨シーズンにヘントをリーグ優勝に導き、さらに昨季チャンピオンズリーグでグループリーグを突破してみせた。この実績でその手腕は完全に認められている。この53歳のベルギー人監督は、戦術家だ。ローテーションに積極的で毎試合のように選手を入れ替え、同時にフォーメーションも変えてくる。当然、久保のポジションや役割も毎試合細かく変化する。

 現在行われているベルギーリーグ、プレーオフ1の直近の5試合を見ても、3−4−3と4−2−3−1を使い分けているのが分かる。

 第4節ヘント対オーステンデ、第5節ズルテ・ワレヘム対ヘント、第6節ヘント対アンデルレヒトの3試合が、3−4−3でスタートしている。この3試合では、3バックに左右のウイングバック、中盤にダブルボランチ(2センター)を置いて、前線3枚が1トップ2シャドー。久保はこの2シャドーの一角に入るわけだ。久保は第4節、第5節が2シャドーの右、第6節が2シャドーの左に入っていた。

 第7節オーステンデ対ヘントも3−4−3だったが、前線3枚の並びが変わった。左から久保、中央に77番ミリチェビッチ、右に7番クリバリの前線3枚が横並びに。中央のミリチェビッチが偽9番のような役割になっていた。

 第8節のヘント対シャルルロワは一転オーソドックスな4−2−3−1で始めている。久保はトップ下を務めた。

 この間、久保にとって連携が重要になってくるセンターフォワードタイプの選手をとってみても第4節が24番ペルベ、第5節、第6節、第7節が7番クリバリ、第8節に再び24番ペルベとコロコロと変わっている。

 連携を習熟させていくべき周りの選手やフォーメーションが毎試合細かく変化する。それに対応するのは、選手にとって容易なことではない。4月21日の第4節、ヘント対オーステンデ後、チームとしてちょっと噛み合ってない感じがあるが、という質問があった。久保は、「やっぱり毎試合システムが変わるというか、メンバーも変わるし。そこの中で合わせていくのは、多分選手たちもちょっと難しい気は、僕はしていますけど。でも、その中でもよくチャンスは作れているので。あとは決めるところかなと思います」と答えている。「(ずっと右サイドでやりたいとか)そういうのはないですけど。ミリチェビッチがこっちに来たら、僕が流れるっていう、流動的にやっていたので。もうちょっと守備のところで、あんまり僕も理解できていなかったので。そこはハーフタイムで修正してっていうのが。後半はマシだったかなと思います」

 守備面で、このチームで久保はどういう役割を果たすべきなのか。久保は試行錯誤を続けている。

 4月25日、第5節ズルテ・ワレヘム対ヘント戦後のコメントでも、そんな試行錯誤の過程が見て取れる。

 「守備の時は中に入らないといけないので。どうしても、中にも入りつつ下がりながらって、運動量が増えるのでちょっと慣れていかないといけないですね。サイドハーフでもないし、フォワードでもないしっていう、微妙な位置ですね」

 この時は2シャドーの右に入っていた。続く第6節のヘント対アンデルレヒトでは、より役割への理解がハッキリしてきていた。この試合では攻撃時は2シャドーの左だが、守備時はトップ下の位置に入って相手のボランチを見る、といったように守備時のポジションがより明確になっていた。

 「最初から(守る時は中に絞ってボランチを見ろと)言われていたんですけど、なかなか付けなくて。ちょっと距離感もあったし。あそこを見るように監督に言われたので」

 ただ、後半からはもはや4−2−3−1のトップ下のようなポジションでプレーしていた。これについては本人も「いやまあ、サイドなんですけど、一応、真ん中を守備で見ないといけないということで、真ん中でプレーしようと思って」と、独断でトップ下的なプレーをしていたという。

 続く第7節オーステンデ対ヘントで、ヘントは3−4と大量失点して敗北を喫してしまう。「今日は守備が全然駄目でしたけど、僕も含めて」とは試合後の久保のコメントだ。「中に絞るというか。逆サイドにボールがある時に、中にしっかり絞って、サイドチェンジさせないようにというか。絞るように強く言われました。ハーフタイムに」大量失点したこの試合を経て、久保は守備の意識がより高まったようだ。

 「どうしても、僕は前への意識が強すぎて残っている、サボるじゃないですけど、残っている場面が、自分でも多いなと。そういう部分は絞らないといけないな」

 そして、第8節のヘント対シャルルロワでは、守備の意識を高く持って試合に入ったという。

 「今日は4−4−1−1みたいな感じで。僕がトップ下みたいな感じでしたけど。守備のところは前回よりは改善できました。言われたんで監督から、守備のところを。そこは凄い意識してやってましたけど。あれはあれで良かったと思います」

 久保の最大の魅力は得点力だ。その強みを減ずることなく、チームを助ける上でより効率的な守備ができるようになれば、それに越したことはない。またコロコロと変わるフォーメーションやポジションに対応するのは大変だ。だが、トップ下しかプレーできないといったような幅の狭い選手になることなく、サイド、シャドーストライカー、トップ下と、前線ならどのポジションで使われても適応できる選手になってきている。

 ローテーションにも積極的で選手やフォーメーションを頻繁に変えるファンハーゼブルーク監督だが、久保はポジションこそ変われど、ずっと使われ続けている。久保が指揮官から絶対的な信頼を得ている証だ。そのファンハーゼブルーク監督は、5月3日に2018年までだったヘントとの契約を2019年まで延長した。戦術家監督の下で、久保が成長を続けている。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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