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【コラム】海外通信員

テベスの上海申花移籍

[ 2016年12月29日 21:00 ]

 2016年も残すところあとわずかという今、アルゼンチンサッカー界ではカルロス・テベスが中国の上海申花に移籍間近という話題で持ちきりとなっている。

 テベスは昨年6月、11年ぶりに古巣で最愛のボカ・ジュニオルスに復帰した。まだ欧州のクラブでプレーできるコンディションを維持しながらも母国に戻る決意を下し、ピッチ内外でリーダーとなって文字通りチームを背負い、半年後にはボカをリーグチャンピオンとコパ・アルヘンティーナ優勝に導いた。今年は不調が続き、目標だったコパ・リベルタドーレス優勝の夢も準決勝敗退に終わったが、去る12月11日に行われた宿敵リーベルプレートとのスーペルクラシコでは攻撃の要となり、自ら2得点を挙げる活躍から2−4の圧勝に貢献。スターの貫禄をしっかりと見せつけた。

 行く先々でタイトルを勝ち取り、ウェストハム時代にはチームを2部降格の危機から救い出し、世界各地でファンの心を掴み、期待どおりのパフォーマンスで楽しませてくれたテベス。そんな彼にも、ついに中国のサッカーからお呼びがかかったというわけだ。

 上海申花の近況を全く知らなかったので調べてみると、なんと監督はグスタボ・ポジェだという。日本のサッカーファンの皆さんにとって、ポジェはおそらくサラゴサ、もしくはプレミアリーグでプレーしていた頃のイメージが強いと思われるが、私には今から10年ほど前、彼が母国ウルグアイで少年サッカー部門の仕事をしていた頃に取材したときの印象が残っている。あの時、ボジェはこんなことを話してくれた。

 「ウルグアイのサッカーというと誰もがすぐ『ガーラ』(ど根性)という言葉を思い浮かべるけれど、自分は『ガーラ』に首を締め付けられるのは嫌いだ。がむしゃらに勝つことだけを考えてプレーしていた自分を変えてくれたのがイングランドだった。イングランドの人たちは心からサッカーを楽しんでいる。サッカーはガーラの代名詞ではなく、もっと楽しんでやるものだということを教えてくれたのがイングランドだった」

 サッカーにおいては「勝利への飽くなき執念」が根源となっているウルグアイ人にしては珍しい考えの持ち主だな、と思ったのを覚えている。監督としては近年、解雇の屈辱が続いていることもあり、上海申花でのリベンジにさぞ意気込んでいるに違いない。

 アジア・チャンピオンズリーグ出場をかけたプレーオフが行われる2月8日までにテベスが合流することを心待ちにしているというポジェ監督のチームには、すでにジオ・モレノがいる。モレノはコロンビア人MFで、以前アルゼンチンの強豪ラシンでプレーしていた頃は、あのフアン・ロマン・リケルメを思わせるプレーでサッカーファンを魅了。私も大ファンだったが、2012年に上海申花に行ってしまってからは彼の出場するゲームを全く観ていない。

 この原稿を書いている時点でテベスの移籍はまだ決定ではないが、12月26日に放送されたアルゼンチンのラジオ番組のインタビューでポジェ監督は「契約に向けて最終的な詰めの段階にあり、あとは公式発表を待つのみ」と話しており、アルゼンチンのスポーツ紙OLEも「年内にもテベスの中国移籍が正式に発表される」と報道している。長年のパートナーだったバネッサ・マンシージャと結婚式を挙げ、私生活でもますます充実しているテベスが新天地を中国に移し、上海でもタイトル獲得に成功するかどうか。ポジェ監督とテベスの新しいチャレンジの地が上海になるのなら、来年は私もいよいよ中国スーパーリーグの行方を追うことになりそうだ。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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