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【コラム】海外通信員

セビージャの裏切り者!?
セルヒオ・ラモスをめぐる騒動

[ 2017年1月21日 07:00 ]

国王杯セルタ戦でヘディングシュートを放つセルヒオ・ラモス
Photo By AP

 2014年11月30日、アトレティコ・マドリードとデポルティーボ(ラコルーニャ)の両ウルトラスが衝突し、1人の死者を出した。スペインプロリーグ機構ラ・リーガはその事件を機に、スタジアム内外での言葉含めた暴力の追放を標榜したが、ここまで戦果を挙げている。言葉の暴力に関しては確実に少なくなっており、これまでは当たり前だった侮辱的なコールが起これば、「ラ・リーガが処分求める」と大きなニュースとして取り上げられるようになった。

 しかし、それでもスタジアムでは、時に抑え切れぬように愛と紙一重ともされる憎しみの感情が噴出する。今月12日に行われたスペイン国王杯5回戦セカンドレグ、サンチェス・ピスファンを舞台としたセビージャ対レアル・マドリード(3−3、合計スコア6?3でレアルがベスト8へ)では、セビージャのウルトラスが陣取るスタンド付近から「死ね」「くそったれ」などのコールが繰り返された。対象者は、元セビージャのセルヒオ・ラモスである。

 執拗なまでに侮辱を受けたS・ラモスは、それに真っ向から応戦。レアルがPKを得た際にキッカーに名乗り出て、得意とするパネンカ(チップキック)でゴールを決めると、侮辱を繰り返すスタンドに向けて両耳に手を当てるなど挑発を行った。するとスタジアム全体が、キッカーを務めたばかりか“舐めた”キックを見せたとして、同選手に対して辛辣なブーイングを浴びせる事態となった。彼らの間にかつてあった愛は、無残なまでに破綻していた。

 セビージャの下部組織出身であり、同クラブのファンにとっては“我が子”同然であったS・ラモス。そんな彼がここまで嫌われるようになった理由はもちろん、2005年にセビージャファンが忌み嫌うレアルへと移籍を果たしたことにある。S・ラモスと古巣のファンの意見は、その移籍がどのように成立したかで食い違う。当時のセビージャ会長ホセ・マリア・デル・ニドは「S・ラモスが世界最高のDFになることを望み、このクラブを後にした」と話していたが、S・ラモスはセビージャに終身雇用契約(最高年俸の選手と同額を受け取る条件の10年契約)をオファーしながらも断られるなど、致し方ない移籍であったことを強調。ファンが信じるのは前者の意見、つまりはクラブ、自分たちに対する背徳行為である。

 S・ラモスとセビージャファンの仲違いは、そうして始まった。S・ラモスが公の場で口を開くとき、セビージャへの敬意を欠いたことなどこれまで一度もなく、「僕はマドリードとセビージャの人間。自分の墓にはどちらの旗も入れてほしい」とも語っている。けれどもセビージャファンは、自分たち相手に得点を決め(これまでに6得点を記録)、なおかつ臆面もなくレアルのチームメートとゴールを喜ぶS・ラモスへの憎悪を深めていった。退団会見で涙を流し、バルセロナへと移籍したダニエウ・アウベス、イヴァン・ラキティッチが、ウルトラス含めたセビージャファンからいまだ変わらぬ愛を享受しているのとは対照的である。

 先の国王杯の一件は、両者の抱える負の感情がついに爆発したものだった。S・ラモスが生まれたセビージャ県カマスにあるセビージャのペーニャ(クラブ公認の応援グループ)“クルトゥラル・セビジスタ”のメンバーは、愛を誓うクラブと、自分たちの町の英雄の関係が崩壊したことについて、次のような見解を述べる。「ファンも、PKを蹴った彼も間違いを犯した。しかし今回だけでなく、彼らは何回も間違えてきた。ラモスも礼儀を忘れてはならない」

 セビージャとレアルは国王杯に続き、15日のリーガエスパニョーラ第18節でも対戦したが、紹介アナウンスでS・ラモスの名が口にされると、100デシベルを超える指笛がピスファンに響き渡り、レアルの背番号4がボールに触れる度にブーイングが飛んだ。試合はS・ラモスのオウンゴールもあり、セビージャが2−1の逆転勝利を飾った。カマス出身者は試合後、「現実を変えることはできないし、受け入れなければ。もちろん違う歓迎を望んでいるけど、状況を変えようと試みてもどうにもならないんだ。自分自身の姿勢には満足しているし、マドリードでは愛情は感じられる。この件について、もうコメントしたくはない。もし言葉の暴力があったのなら、手段を講じてくれればいいだけのことだ」と寂しげに語った。

 ラ・リーガは16日、国王杯のセビージャ対レアルでS・ラモスに侮辱する言葉が投げかけられたとして、スペインサッカー連盟の競技委員会及びスペイン政府の反暴力委員会に対し、罰金及びスタジアムの一部閉鎖といった処分をセビージャに科すことを求めている。セビージャ側はS・ラモスの挑発行為も処分対象とするようラ・リーガに訴えたが、それは審判の報告書に記載されるべきこととして、取り合ってもらえなかった。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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