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【コラム】海外通信員

4年連続フランスチャンピオンに何が!?
パリが変だ

[ 2016年12月15日 23:49 ]

パリSGのFWカバーニ
Photo By スポニチ

 12日午後のチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント抽選会−−。

 パリSG(PSG)のゼネラルディレクター(GD)、ジャン=クロード・ブランは、緊張していた。残るはレスターかFCバルセロナ。誰だってレスターに当たりたい。祈る思いだっただろう。だが天から落ちてきたのはバルサだった。GDの喉仏がゴクンと動いた。

 アンチPSGのフランス人は、国のためには喜べないが、つい笑ってしまった。だがPSGファンの方は、6日前のフラッシュバックに襲われた。GS最終節のルドゴレツ戦(2−2)である。ここで勝ってグループ首位を確実にしていれば、バルサに当たることはなかったからだ。ところがPSGはこの日、ホームにもかかわらずひどい試合ぶりで首位から転落。翌日の「レキップ」紙大見出しは「唖然茫然」だった。

 実はその3日前にもPSGは、リーグアンでモンプリエに惨敗(0−3)。選手たちは「アクシデント」と説明していた。だがルドゴレツ戦は、とてもアクシデントでは片づけられない内容だった。やる気のないディマリアには非難の口笛が飛び、大ミスを犯したマルキーニョスには「2」の採点がつけられた。そもそもまるでチームになっていなかった。

 首位のニースと激突した第17節(11日)でも0−2と先制され、後半はさすがに王者の意地をみせたものの、最終スコアはやはり2−2。ニースとの勝ち点差は依然4で、しかも欧州一の攻撃力を誇る驚愕のモナコ(2位)にも3点差をつけられている。

 どうもパリがおかしいのである。

 4年連続フランスチャンピオンに、いったい何が起きているのだろうか。諸説ふんぷんで、謎は深まっている。

 第一は、“カタール犯人”説。

 昨季常勝マシンと化していたにもかかわらず、CL準々決勝でマンチェスター・シティ(マンC)に敗れたというだけでローラン・ブラン監督を解任したからだ。決定したのはオーナーのカタール元首だと言われている。マンCオーナーが宿敵国のためで、国家の恥と感じたらしい。代わって招聘したのがウナイ・エメリ現監督で、「エメリとならCLでもっと上に行ける」が売り文句だった。だがもしバルサに敗れれば、もっと上(ベスト4以上)どころか4年連続ベスト8の座さえ失うことになる。

 第二は、“エメリ犯人”説。

 エメリは到来と同時に、MFクリホビアク、SBムニエ、FWヘセを要望して獲得。信奉する4−2−3−1で、パストーレをトップ下に置き、彼ら3人が活躍する予定だった。一方、アルケライヒ会長の強力な引きでゲットした天才MF/FWベンアルファは窓際族に。MFマテュイディさえ当初は干し気味にした。

 そしてその全てが裏目に出てしまった感がある。

 パストーレはケガばかりで使えず、お気に入りの3人は期待外れ。あるところで主力選手たちが監督に反論し、ブラン時代の4−3−3に戻す羽目になった。そうこうするうちベンアルファが必要になり、皮肉なことに4−2−3−1がベンアルファのお蔭で実現する。だが何カ月も干されて試合勘が落ちたベンアルファは、本人の必死の努力にもかかわらず昨季の絶好調を取り戻せていない。しかもGKまで競争にさらした結果、トラップもアレオラも自信を失ってしまっている。

 寒い木枯らしが吹くような発言で知られる辛口アナリスト、ジル・ファヴァールは、こう断言する。「エメリは最初からミスしたのさ。自分のやり方が通用すると思い込んでいたのだ」。エメリは、もともといた主力選手たちやベンアルファの情報をしっかり検討・把握せず、自分の流儀でうまくいくと思い込んでいたフシがあるのである。

 第三は、“派閥犯人”説。

 それによるとPSGはいま、二派閥に分裂しているという。一方はアルケライヒ会長とその取り巻き連。他方はスポーツ面を司る指導者たち。前者にはQSI(カタール・スポーツ・インヴェストメント)責任者、会長室責任者、ビーイン・スポール責任者などがおり、会長不在時に幅を利かせているらしい。後者には冒頭に紹介したGDのブラン、スポーツディレクター(SD)のオリヴィエ・レタンらがいる。両者の役割分担がすっきりしていないため、リクルーティングにも混乱が起きているようだ。

 しかもフットボールディレクターという曖昧な肩書で、クライファートまでいる。クライファートは、問題のCLルドゴレツ戦直前に、ネクタイ・背広姿で何人かの選手とテニス・バロン(ネットを挟んだ足テニスのようなもの)に興じ、一部から顰蹙と驚きの目で見られたという。前述のジル・ファヴァールは、「エメリがアウトになったら自分が監督になりたいのさ。クライファートはそれしか考えてない」と容赦なくこきおろした。

 もっとすごいのは、PSGの職員たちが辞めたがっているという現実。「レキップ」紙によると、少なくとも20〜30の契約解消要望が出されているという。ディズニーランドでおこなわれた親睦会では、会長が来て演説に立ったらみなで退場する、という“抗議行動計画”まであったらしい。だが会長が来なかったため、これは実行されなかった。

 第四は、“選手犯人”説。

 たとえばディマリアは、今季一度も輝いていない。プレッシング努力もせず、ボールを奪われても走る振りをするだけ。注意して観察すると、ベンアルファがピッチにいるときは、必要でもベンアルファにパスを出さない。ダビド・ルイスが去ってついに先発をゲットしたマルキーニョスも、このところ大きなミスばかり。前述のようにアレオラも自信喪失状態で、ヴェラッティはと言えば貢献よりケガの方が多すぎる。チアゴ・モッタも、時おり好パスを見せるものの、あまりやる気が感じられない。

 ぎょっとするのは、いつもにこやかで真面目なマテュイディまでがイライラしている点。ルドゴレツ戦ハーフタイムには、クリホビアクのミスに苛立ち、「試合のこの時点になったら(ロングで)出せよ! ビルドアップばかりしたがるのはやめて、出すんだよ!」と食ってかかったという。ここにキャプテンのチアゴ・シウバが、「チームなんだぞ、批判し合っちゃダメだ!」と介入すると、今度はマテュイディとキャプテンの言い争いになってしまい、クリホビアクが割って入って喧嘩を止めたらしい。どうやら強烈なリーダーも不在のようである。

 奮闘が際立って見えるのは、ズラタンが去ってついにCFをゲットしたカバーニぐらい(リーグアン16ゴール)。だがカバーニもチームをまとめるタイプではなく、それでいてプレーではカバーニ依存症になっている。

 パリがおかしいのは、これら諸説のどれか、または全てが原因なのだろう。いやいや、たくさんの説など検討しなくても、単にズラタンがいなくなったせいかもしれない。それでもPSGは、5年連続チャンピオンタイトルを実現できるのだろうか。ズラタンの罵声が懐かしい今日このごろである。(結城麻里=パリ通信員)

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