オシム氏の提言 日本代表に必要な修正力と判断力

[ 2020年11月28日 05:30 ]

元日本代表監督のオシム氏
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 11月17日(日本時間18日)のメキシコ戦で日本代表は年内の活動を終了した。メキシコには敗れたが、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、日本代表の戦いはどうだったのか。現地オーストリア・グラーツ在住の元日本代表監督、イビチャ・オシム氏(79)が来年のW杯予選や東京五輪に向けてスポニチにメッセージを寄せた。

 日本対メキシコ戦は、私の自宅のあるグラーツ(オーストリア)で行われたが、またスタジアムで観戦できなかった。ヨーロッパは新型コロナ感染の第2波が広がって、オーストリアも夜8時からの夜間外出禁止令が出ているからだ。今の時期の厳しい制限は、クリスマスごろに外出ができるようにする狙いがあるという。

 ちょうどメキシコ戦前日から昼間の外出も制限され、ロックダウンが強化された。こういう状況で試合をアレンジしたサッカー協会、代表チームの選手・スタッフのみなさんは大変だったと思う。

 試合は無観客だったが、直前で中止になってもおかしくなかった。では中止になった方がよかったような負け試合だったかといえば、そうでもない。いくつかの見どころ、考えどころがあった。

 まず、日本が前半のチャンスを得点に結びつけていたら、まったく別の展開に――などと口でいうのは簡単だ。チャンスをいつも決められれば、監督は苦労しない。「決定力不足」と指摘するだけでは解決にならない。

 もちろん強いチームは少ないチャンスを確実に決めるものだが、それだけではない。調子が悪い時でも「なんとかしてしまう」のが強いということだ。練習通りにいかない時にも、なんとか競り勝ったり、最低限引き分けに持ち込むことができるか。

 W杯では決勝まで1カ月に7試合ある。すべての試合が絶好調というわけには当然いかない。調子が上がらない、あるいは予想外の展開の時に、試合の流れを変えて「なんとかしてしまう」ことができなければ、先には進めない。

 この点、日本はまだまだだ。前回のパナマ戦ではかろうじてPKを得て勝ったが、メキシコ戦では反対の展開になった。調子のいいとはいえないメキシコに数少ないチャンスをものにされた。結果は2点差の完敗だ。劣勢を立て直したメキシコがチームとして強かったということだ。

 課題の一つは修正力だ。前半25分以降、日本のチャンスが途切れたのは、メキシコがやり方を変化させてきたからだ。日本のパスの出所(遠藤と鎌田)をおさえ、攻め急がず、ボールを保持しながらチャンスを待った。後半からはフォーメーションを変え(4―3―3から4―2―3―1)、中盤の人数を増やした。日本の運動量が落ちたこともあり、メキシコが中盤を支配し、試合をコントロールした。このあたりを日本は学ぶべきだ。

 二つ目は自主的な判断力だ。日本はメキシコの変化にどう対応しただろうか。ベンチの指示を待たずに、選手同士が話し合い、対応できるようになってほしい。ベンチからの声は満員のスタジアムでは聞こえない。相手が変化してきた場合、選手こそが相手の最も近いところにいるのだから、自分たちで意見交換して修正しなければならない。そういう能力や習慣を身につけてもらいたい。日本人のもっとも苦手な分野であると知っているからこそ、あえて言っておきたい。

 サッカーでは何が起こるかわからない。それはグランドの中だけではない。とくに現在のような誰も経験したことのない状況では、あらゆる可能性を想定して準備することが必要だ。そして、あらゆる状況の変化に自分たちで対応できるよう、観察力、判断力、修正力を身につけなければならない。ようするに、誰かの指示を待つのではなく、自分たちのアタマで考えて行動する能力だ。

 東京五輪が延期されるなど、1年前に誰が予想しただろうか。2022年W杯の予選にしても、従来の方式(ホーム&アウェー方式)ではなく、短期間の集中開催方式にすると、いきなり発表されるかもしれない。感染がいつ収束するのか誰にもわからないのだから、よく準備して、機敏に対応できるようにするしかない。
 その準備もどのくらい時間がかけられるのか、監督やスタッフも悩むところだろう。

 戦術的には最終予選まで、さらに(無事に予選突破したとして)W杯本番までに、いくつかオプションを持てるようにしたい。前線からのプレッシングで相手のボールを奪う局面、反対に全員が自陣に引いて守備を固める局面、ロングボールから少人数でカウンターを狙う局面など、対戦相手や試合の流れ・局面で使い分ける。

 攻撃陣がプレッシングの練習をすれば、守備陣はそのプレッシャーをかわしてボールをキープする(最終的には攻撃へのパスにつなげる)訓練にもなる。

 そういうトレーニングをやりたいものだが、代表チームは時間がなかなか取れない。では、どうするのか。そこに監督、スタッフ、選手たちの知恵と頭の使い道がある。

 最後に、川崎フロンターレ、Jリーグ優勝おめでとう。アジアだけでなく、世界で通用するビッグ・クラブをめざして、現状に満足しないで進むことを期待する。(元日本代表監督)


◆イビチャ・オシム 1941年5月6日生まれ、ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)・サラエボ出身の79歳。90年W杯イタリア大会にユーゴスラビア代表監督として出場、MFストイコビッチらの活躍で8強入りし注目される。03年市原(現J2千葉)監督に就任し、05年ナビスコ杯優勝。06年W杯ドイツ大会終了後に日本代表監督に就任した。「ライオンに追われたうさぎが肉離れしますか?」などの「オシム語録」でも注目された。07年11月に脳梗塞で倒れて退任。16年旭日小綬章受章。

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