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FC東京・安間貴義コーチの独特な育成論「努力したら、報われてほしい」

[ 2020年4月29日 09:30 ]

指導するFC東京の安間コーチ(提供:FC東京)
Photo By 提供写真

 「興味を持って、ほったらかしにしています」

 FC東京の安間貴義コーチ(50)は、独特の育成論で名選手を育て上げていく。「興味を持ちすぎて、手取り足取りで指導するのは過保護。でも、興味を持たずにほったらかしにするのは無責任。その中間がちょうどいいんです。ずっと観察していて、選手から教えを請うてきたらピンポイントで教える。自分はそこで何を言えるのかが指導者としての勝負の分かれ目だと思っています」。01年に現役を引退し、翌年に指揮を執るようになったホンダFC時代から、方針に一切のぶれはない。

 現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響でチームは活動を休止しているが、平常時は練習を行っている小平グラウンドで指導風景を目にすることができる。全体練習が終わると、気になった点のある選手が安間コーチの下に寄っていく。コーチは時に大きな手ぶり、体の動きをつけながら説明をする。普段は柔和な表情を崩さず、時に冗談を飛ばし、選手からも帰り際にはフレンドリーに話しかけられるが、指導では妥協はない。以前の指摘を忘れていれば叱責(しっせき)し、選手の言葉に甘えがあればそこを射抜く。

 「どうしても逃げちゃう時が出てくる。だから、その選手が口にした目標を再確認させた上で、できるだけ具体的に言ってあげる。ただ、長くなると残る言葉も少なくなるので、印象に残るように短く。あとは、選手の発想を引き出すようにアプローチする。そこに『試合に出たいなら、これをやらないと勝負にならない』とプロとしてのプライドをくすぐったりもします」

 そんな指導法で現在の日本代表にも教え子を輩出する。MF橋本拳人(26)、MF中島翔哉(25=ポルト)、MF久保建英(18=マジョルカ)らは伸び悩みを経験しながら、安間コーチとともに考え方やプレーを改善し、日の丸をつけて世界と戦う舞台へと飛び立った。特に橋本の伸び方は顕著だった。橋本は12年にFC東京の下部組織からトップチームに昇格。13年5月にJ2熊本(当時)に期限付き移籍して成長すると、15年から自信をたずさえてFC東京に復帰した。しかし、待っていたのは失望感だった。

 安間コーチが振り返る。「先輩から毎日のように『下手だ』と言われて、ボールを受けなきゃいけないのに、パスコースから隠れちゃうこともあった。だから基本練習でボールの置き方から直した」。二人三脚で取り組んだのは基礎の基礎。ボールのもらい方、足元での置き方、90度ターン、ポジショニング。「ボールを中心にターンする、二つ目の足で(ボールを)隠す、バックステップの使い方。とにかく全部やった。棒を立ててクルクルと、ボールを中心にターンする練習から始めましたね」。懐かしむように笑った。

 今や橋本は日本屈指のボランチに名を連ねるまでになった。19年シーズンでは自身初となるベストイレブンに選出。安間コーチの指導法が寄与した結果だが、自身は「勝ち取るのは準備していた人だからと練習に取り組んでいた。絶対に代表に入るという強い意志もあったし、だったら、そこに導かなきゃいけない。僕のおかげじゃない。本人が頑張り続けた結果です」と謙遜する。そこには一つの信念がある。

 「やっぱりさ、頑張っていたら報われないと。サッカーでは努力したら、報われてほしい」

 安間コーチは最後に力強く、そして優しい言葉を残していった。(古田土 恵介)

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2020年4月29日のニュース