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仙台・渡辺監督 5年目のチームに根付いた剛胆かつ緻密なプレー

[ 2018年5月22日 10:45 ]

指示を出す仙台・渡辺監督
Photo By スポニチ

 前職時代の16年末、ベガルタ仙台の渡辺晋監督(44)が欧州視察から帰国した直後だった。1対1で話す貴重な機会を得て、コラム執筆を依頼した。交渉は難航すると思われたが、「チームのメディア露出が増えるなら」と快諾してもらった。

 制約は多くなかった。(1)34試合それぞれで書く(2)テーマは試合直後に電話でやりとりして決定(3)それ以外は自由。選手交代の舞台裏、前泊のとある一幕、采配の妙――。観戦しただけでは理解し得ない情報を紡いでもらった。ちなみにいくつかタイトルを提案したが、最終的に決定した『日晋月歩』は指揮官本人の着想である。

 そもそも渡辺監督は、表裏のない誠実で豪快な人柄を持ち合わせている。だからこその二つ返事だったのだろう。そのほかの事例も枚挙にいとまがない。「来季は3バックでいく」「堅守速攻ではなくボールを握る」。17年シーズンを前にしてトレーニングマッチで新布陣を試していたとはいえ、「書いていいぞ」とのお墨付きを得て様々な構想を明かしてくれた。コラムの各回でも、基本的には秘密なしの剛胆さは表れた。

 17年8月5日に行われたアウェーの鹿島戦。記録的な濃霧に襲われ、試合中断、カラーボール投入、さらにピッチ脇には大型扇風機が持ち出されるなど、記憶に残るゲームとなった。「大変でしたね」。そう投げかけると「現地サポーターもきちんと試合を見られてないんじゃないかな。スカウティングビデオを確認しても、全くプレーが映ってない」とお手上げの様子。選手達には「こっちではきちんと把握できていないので、みんなで話し合ってくれ」と正直に伝えたという。

 一方で緻密な戦術家であり、勤勉な勉強家の一面も持ち合わせる。先の視察で訪れたドイツのクラブでは、最新の練習を見学するに飽き足らず、自ら実践。効果ありと実感するや、チームへの落とし込みを試行錯誤した。またイングランドではチェルシーの戦い方から着想を得たうえで、次々に理論を取り込み、各方面から「仙台が面白い」と評価されるまでのサッカーを築き上げた。「ポゼッションは目的ではなくゴールを奪う手段に過ぎない」と話すが、崩しの質や量は、本家とも言える川崎フロンターレに勝るとも劣らない。ちなみに4バック時代から変わらぬコンセプトは「球際、切り替え、走力」。ベースの三点ではどこにも負けるなと指示、あくまでも崩しの部分は土台の上にあるものだ。

 剛胆と緻密。18年5月20日に鹿島アントラーズをデュエルで圧倒した様子を見れば、渡辺監督の内側に同居する性格が、率いて5年目のチームに根付いていることがうかがえる。(古田土 恵介)

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2018年5月22日のニュース