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引き分け狙いについて考える

[ 2018年4月17日 11:00 ]

なでしこジャパン・高倉監督
Photo By スポニチ

 【大西純一の真相・深層】なでしこジャパンがアジアカップの1次リーグ最終戦でオーストラリアと1―1で引き分けた。1点先行したが、後半41分に追いつかれると、その後はCBでボールを回すだけで意図的に攻撃せず、またオーストラリアも“同調”して引き分け、両国がそろって準決勝に進出した。

 高倉監督は「アグレッシブに行きたいところもあるが、まずは出場権をしっかり獲得するということ。一つヤマを越えたので、前向きに進みたい」と言っていた。スッキリしない結果だったが、サッカーにも教科書には書かれていない戦い方だった。

 たしかにどんな試合でも勝つために最善を尽くすことは当然。大勢の観客がスタンドを埋め、テレビでも大勢の人が見る代表戦に消化試合がないことも理解している。ただ、大会の中の1試合ではなく、大会全体で捉えればこれも“戦略”と言えなくはない。

 アジアカップ準決勝で日本は中国と対戦、厳しい試合に勝てば決勝進出、負けても3位決定戦があり、日本は経験を積める。さらに出場権を確保することができたので女子W杯フランス大会にも出場することができる。もしもオーストラリア戦で無理して攻めて、カウンターで失点し、5位決定戦に回ったとしたら、準決勝はない。5位になれなければW杯出場もなくなる。てんびんにかけるまでもなく、ここは2位以内確保を選択するしかないだろう。

 68年メキシコ五輪でも1次リーグ初戦でナイジェリアに勝ち、第2戦でブラジルと引き分けた日本は最終戦のスペイン戦で引き分けを狙いに行った。勝って1位で決勝トーナメントに進出すると、メキシコシティーから約500キロ離れたグアダラハラに移動しなければならない。2位ならずっとメキシコシティーで試合ができる。「メダル獲得」を目標にしていた日本が移動の負担を考えて、スペインと引き分けて2位で通過を選択したのは当然で、これが銅メダルにつながった。ロンドン五輪でも同様になでしこジャパンが1次リーグ最終戦の南アフリカ戦で引き分けを狙い、2位通過でカーディフへの移動を回避してロンドンに居続け、銀メダルを獲得した。

 1試合1試合を考えれば「けしからん」と言われるかもしれないが、大会全体で見れば優勝するための戦略と言っても否定はできない。じっさい後半41分まで勝ちに行っていて、追いつかれたから選択しただけだ。

 野球にも打者と故意に四球を与えて次打者と勝負する「敬遠」がある。勝負を避けることも戦略と考えれば、引き分け狙いも絶対に駄目とは言えないわけだ。

 ◆大西 純一(おおにし・じゅんいち)1957年、東京都生まれ。中学1年からサッカーを始める。81年にスポニチに入社し、サッカー担当、プロ野球担当を経て、91年から再びサッカー担当。Jリーグ開幕、ドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、W杯フランス大会、バルセロナ五輪などを取材。

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2018年4月17日のニュース