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選手権初制覇の前橋育英・山田監督 35年かけて花開いた原点とは

[ 2018年1月12日 11:00 ]

イレブンに胴上げされる前橋育英・山田監督
Photo By スポニチ

 一貫した指導が花開いた。第96回全国高校サッカー選手権決勝で前橋育英(群馬)が流通経大柏(千葉)を1―0で下し、初の頂点に立った。選手権では4強4度に準優勝2度。苦節35年で名実ともに名将となった山田耕介監督(58)には、今の指導につながる原点があった。

 四半世紀以上も前にさかのぼる。名将・小嶺忠敏監督の下、島原商(長崎)で全国制覇を成し遂げた山田監督は、若き熱血教師となった。だが、根性論だけでは全国優勝も強烈な個性を育てることもできない。高校生年代の指導に何が必要か。「そこを知らないとスタートできない」。世界基準から逆算して自らの指導現場に落とし込むため、「31〜32歳の時に」オランダ・アヤックスの現場へ1カ月半ほど訪れた。

 若手育成に定評がある名門から学ぶべきものは多かった。名手ヨハン・クライフらを輩出した「トータル・フットボール」のメカニズムの数々。そして最も感銘を受けたのは同クラブのアカデミーによる「TIPS」という4つの育成哲学だった。(1)テクニック(T)(2)インテリジェンス(I)(3)パーソナリティー(P)(4)スピード(S)。この4原則を基準に10歳以下の各カテゴリーからプログラムが組まれ、「ビシビシと凄い練習をしていた」と知った。

 「4つで何が一番大切か」。そう聞くと、答えは意外にも「パーソナリティー」だったという。「どんなにサッカーがうまくたって、スピードがあったって、人間性が良くなければいけない。その通りだと確認できた。全国で優勝しましたと言っても“あっ、そう”で終わりじゃないですか」。日本がドーハの悲劇も日韓W杯の熱狂も知らない時代。世界基準に照らし合わせ、連係で崩す攻撃スタイルへと舵を切ながら、選手の長所を伸ばす方針を貫いた。「何がスタンダードだ」「偉そうに言うな」。そんな周囲からの声にも屈しない。毎日、部員一人一人と面談し、選手の個性を探った。今では寮で選手たちと寝食を共にし、生活指導も行う。故・松田直樹さんら50人以上のJリーガーを輩出する前橋育英には「TIPS」に着想を得た指導姿勢があった。

 山田監督は00年にS級ライセンスを取得。「いろいろ勉強しました」。恩師の小嶺氏が示した「本気」という言葉に、自分なりの信念や意味合いを吹き込み、群馬県勢初の選手権制覇までたどり着いた。「ホッとしました」。優勝インタビュー中に男泣きした姿には、高校サッカーに捧げた人生の重みが感じられた。(大和 弘明)

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2018年1月12日のニュース