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元なでしこGK海堀 現役復帰は「熊本だから」 サッカー通じ復興支援を

[ 2017年6月15日 13:23 ]

熊本ルネサンスFC入りし、練習中に笑顔を見せる海堀
Photo By スポニチ

 サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」でGKとして大活躍し、昨年1月に現役を引退した海堀あゆみ(30)が、九州女子リーグの「熊本ルネサンスFC」でコーチ兼任のフィールドプレーヤーとして現役復帰した。熊本地震に翻弄(ほんろう)されたクラブの再建へ、さらに女子サッカー界の新たな起爆剤に。アマチュア選手として復帰した海堀の競技人生第2章に大きな注目が集まる。(東山 貴実)

 熊本地震発生から1年と2カ月が経過した。かつて、なでしこジャパンの絶対的守護神としてゴールを守り続けてきた海堀の姿は、熊本県の上益城郡嘉島町の練習場にあった。

 「自分の中では現役復帰というより、新たなチャレンジという気持ち。ただひとつ言えるのは、熊本じゃなかったら、このチームじゃなかったら、やっていないと思う」

 日本代表通算53試合。11年W杯ドイツ大会ではPK戦に持ち込まれた米国との決勝戦でスーパーセーブを連発。日本初優勝の立役者となり、同戦のMVPにも選出された。数々の栄光を手にし、昨年1月に現役引退。その海堀が現役復帰するきっかけは今年4月9日だった。

 熊本でなでしこジャパンの国際親善試合が開催され、サッカーの普及イベントに参加した際、古巣INAC神戸の元ゼネラルマネジャー(GM)で、現熊本ルネサンスGMの山下恭典氏と再会。熊本地震の影響で練習場の確保やスポンサーの支援が困難になり、昨年12月には全選手が自由契約となり、前運営会社も解散。クラブが存続危機に面する中で奔走したのが同GMだった。その中で熊本市南区に本社を置く食品卸の「木村」が支援に名乗りを上げ、新運営体制が決まった。さらに、チームの登録選手が当時12人(現在は海堀含め14人)しかいないなど、地震で被災したクラブの厳しい現状を知ったことで、「私に何かできないか?」と同GMに申し出たところ、返ってきた答えが「だったら選手をやってよ」だった。

 「それまでプレーヤーとして復帰するイメージなど描いたこともなかったが、自然というか、すんなり“やります”と返事をしていた」。熊本女子サッカーを通じて復興に少しでも役立てればという思い。迷いはかけらもなかった。

 ただ、山下GMとの間に一つの“約束”を交わした。それはGKとしては復帰しないということ。海堀は「GKとしてはやり切った。未練は全くないし、自分の中でもきっぱり終わっていること」。だから、フィールドプレーヤーとしての登録を望んだ。実は、海堀はサッカーを始めた小学2年から高校3年時まではDF。ただ、熊本ルネサンスでは自身のサッカー人生初のFWに挑戦。5月7日のリーグ戦では後半6分からFWとしてデビューしたが、シュートは0本に終わった。

 「そんなにサッカーは甘くないですよ。(FWとしての出場は)しんどかったけど、楽しかった。点を取ることはFWの宿命。得点王なんて偉そうなことは言えないけど、1点でも多く積み重ねていければ。ただ、あくまでチームあってのこと。これまでGKとしてチームのみんなに助けられてきましたから」。プレーヤーとしてFWの練習後は、コーチとしてチームに1人しかいないGKの指導にあたる。その中で新たな目標も芽生え始めている。「いつか、“あの人、昔、GKやってたんだって”と、サッカーファンはFWの私しか知らないぐらいになれたら」と照れくさそうに話した。

 現在は昨年9月に入学した慶大総合政策学部の現役学生であり、同大女子サッカー部の指導もしている。そのため、熊本には毎週末に訪れ、チームに合流。「文武両道で、今しかできないことを頑張りたい。決して生半可な気持ちで熊本に来ているわけじゃないし、サッカーは遊びじゃない。そういう決意は持ってやっています」と力強い。

 今ではすっかりチームに溶け込み、後輩たちからは「海(かい)さん、海さん」と慕われる。「私が一番ヘタくそ。お互いに成長していければ。ここからが一からのスタート。一過性の話題ではなく、“熊本の女子サッカーってこんなに熱いのか”と思わせたいし、熊本から愛されるチームになりたい」。次戦は25日の柳ケ浦高校戦(11時キックオフ、大分県宇佐市・九州総合スポーツカレッジG)。守護神からエースストライカーへ。昨年の優勝チームを相手に、海堀がリーグ戦初ゴールを決める。

 ◇海堀 あゆみ(かいほり・あゆみ)1986年(昭61)9月4日、京都府長岡京市生まれの30歳。小学2年からサッカーを始め、京都府立乙訓高では1、2年時はテニス部。高3年時に実業団サッカーチームの下部組織「ラガッツァFC高槻スペランツァ」に加入。同時にDFからGKに転向した。08年にINAC神戸に移籍し、同年になでしこジャパンに選ばれる。11年W杯ドイツ大会、15年カナダ大会に出場し、代表通算53試合。五輪は08年北京、12年ロンドンを経験。1メートル70。愛称「かい」。

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