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1年前はプレーできず…湘南・山根はいかにして這い上がったか 

[ 2017年3月8日 10:17 ]

 J2湘南では今、U―20日本代表候補のDF杉岡大暉が話題を集めている。高卒新人としてはクラブ史上3人目となる開幕戦先発デビューを果たし、2節の群馬戦では早くもプロ初得点をマーク。注目の的だ。そんな中、チームにはもう一人、急成長中の若きホープがいる。DF山根視来(みき)。1年前はサッカーができていなかった。そしてポジションも違っていた。

 桐蔭横浜大を卒業した昨季、湘南に加入。1月、いきなり左足の第五中足骨を骨折した。全治3カ月。サイドアタッカーとしてのプロ生活は、復帰後も順風満帆ではなかった。「1人で2人、3人(ドリブルで)抜いて点を取ることは大学でもできていたし、プロになってもそれが目指すところかなと思ってましたけど…」。だが、あるときチョウ貴裁(キジェ)監督から言われた。

 「Jリーグの監督から見たら、そんなにドリブルがうまい方ではない」

 成長してほしいという願いを秘めた、辛辣な愛の鞭。山根自身も横浜のドリブラー・MF斎藤を思い浮かべながら思った。「確かに」。練習中も特長を消されれば何もできなかった。すんなり納得した。「じゃあ何をするか」。答えはすぐに分かった。

 加入した直後から、湘南スタイルと称される仲間の姿勢には圧倒されていた。「絶対センタリングを上げさせない、中に切り込ませない。チームとしてみんながやっているのを見て、自分もここまでやらなきゃいけないのかと思った」。90分間走り通せる体力。数的不利でも最後まで諦めない泥臭さ。球際で負けないこと。徹底しようと決めた。「妥協した練習は一度もない」。リーグ戦には一度も出られなかったが、胸を張ってそう言えるシーズンを過ごした。

 指揮官は、そんな新人の葛藤も成長もしっかりと見ていた。「なぜ試合に出られないのか、彼が1番分かっていると思った」と振り返る。ただチャンスを与えられたから試合に出ました――という選手に成長はない。なぜ機会が巡ってきたのか、なぜ失敗したのか。「“必然性”が(選手の中に)生まれてくると、自信につながる」と考えている。当てはまったのが、山根だった。

 指揮官は開幕前のスペイン遠征から、DFにコンバートさせた。元々持っている1対1での体の強さを生かしたいという思いはもちろん、最たる理由は「性格」だったという。「本人も“後がないポジション”だと分かっている」。DFは競り負けたらゴールを割られてしまうフィールドの最後の砦。シュートに対して思い切り体を投げ出せるか否か。それを左右する気持ちの強さは、山根が置かれた状況だからこそ強くなるものだという思いがあった。

 開幕・水戸戦で先発に抜擢された山根は、3―4―3の3バックの右に入り、Jリーグデビュー。注目が集まったのはより若いDF杉岡だったが、試合後の会見で指揮官は山根の名前もきちんと挙げた。「山根と新人の杉岡は非常に我々らしい選手として、自信を持って90分間プレーしてくれた」。続く群馬戦でも先発には山根の名前があった。

 DF歴はまだわずか1カ月と少し。23歳は今季鹿島に移籍したDF三竿雄のプレーを参考にしながら模索中だ。「自分の特長と合わせて、どう何を出せるか考えている」。得意のドリブルで前線にボールを運び、マークを追い抜いてセンタリングを上げる姿も思い描く。プロ入りした時に予想していた未来は違うものになった。そのかわり今の山根の目の前には、1年前には見えなかった豊かな景色が広がっている。(波多野 詩菜)

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2017年3月8日のニュース