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カズ50歳「まだ子供だよ!!」 恒例グアム自主トレ「できるなら選手のまま死にたい」

[ 2017年1月1日 10:36 ]

気温30度を超える青空の下、ボールを使ったトレーニングで汗を流すカズ
Photo By スポニチ

 新たな「カズ伝説」の幕開けだ!J2横浜FCのFW三浦知良(49)が今季、前人未到の50歳シーズンを迎える。くしくもJ2開幕が50歳の誕生日と重なるカズをオフ恒例の自主トレ先、グアム島で独占取材した。今季に懸ける思い、生涯現役への誓い、キングの礎を築いたブラジル時代への回帰など、しゃく熱のグアム島でサッカー界のレジェンドに迫った。

 これもレジェンドを祝う演出か。J2開幕は2月26日。カズのサッカー人生でも誕生日の開幕戦は初めてだ。「バッチリ合っちゃったね。世界的にも40代の選手はいるけど50代はほとんどいない。そういう部分では注目される。盛り上がりそうだね」。例によって周囲の注目、前人未到の挑戦を楽しむカズがいる。

 助走は既に始まっている。昨年12月9日、誰よりも早くグアムで自主トレを始動した。「ここに来ると年齢を忘れる。生まれ変わる気がする。冷静に考えれば49歳から1つしか年をとっていない。実際は数字的なもので大した変化はない。大事なのは頭を古ぼけさせないこと。まだできる!試合で活躍したい!まだ若いヤツからも学びたい!というふうにね」

 プロ32年目。当然、肉体の衰えはある。カズは事実から目を背けず、意識を変えることで前を向く。「少しずつ全部が衰えていくのが普通。でもサッカーは11人の連動。基礎体力と技術があれば組み合わせ次第で新しい自分が見せられる、ゴール前の動き次第で点が取れる」。練習は自然と量より質を求めるようになった。「昔は数多くやればいいと思ったけど、今はシュートでもドリブルでも10〜20回を本当に集中して実感しながら練習するんだ」

 不屈のカズ魂が垣間見えるのは体幹や筋トレの時だった。カズは同行した26歳のMF中里より必ず1回余分にメニューをこなす。「人生と同じ。昔とは毎日の重みが変わってくる。2年、3年とやると大きいよ。1回余分にやることがね」。昨オフ、ブラジルの名門コリンチャンスを訪問。特別に最先端器具による測定を受ける機会に恵まれた。筋肉量はブラジル人トップ選手と遜色なかった。周囲より常に1歩でも1センチでも前へ、キングたるゆえんだ。

 現在、カズの頭に引退の2文字はない。未来像について聞くとカズは笑って返した。「いずれは(引退を)するかもしれないけど全く考えてない。珍しいでしょ」。それどころか、真顔で「できることなら選手のまま死にたい。それが本当の思い」と言った。

 カズは今、新たに見つけた価値観を追い、突き進んでいる。某テレビ番組で爪切りの刃をつくる職人の特集を見た。年齢的には視力も衰えてくるはずなのに繊細で、道を極めた仕事ぶりに圧倒された。「手に職を持ち、職業として続けるのは格好いい。年輪というか、職人の魂がね。50代というのは匠(たくみ)の技術を磨くとき」。自分に重ねているようだった。

 カズは「死んだ時に“三浦知良 サッカー選手〜歳”と いうふうにね。元選手の元はつかなくていい」と笑う。14年に、高倉健さんが死去した際“俳優・高倉健 83歳”と報じられたのを見た。「俳優、という響きに凄く重みがあった。極められたんだなと」。カズも生涯一サッカー選手が本望。それも薄っぺらでは意味がない。「年齢より毎日どんな練習をするか、試合で何が できるかが重要」と力を込める。

 世界を見ればベラルーシには56歳選手がプレーした記録が残る。全力で年齢にあら がい続けるカズは笑う。「50歳なんてまだ子供だよ!」

 最近、カズはブラジルに思いをはせることが多くなったという。82年12月、片道切符を手に飛び立った15歳の少年は異国ではい上がり、プロとなった。不屈のカズ魂が育まれた原点の地だ。

 「最近、特によく考える。15から23歳、厳しさ、壁を味わってプロになり、その後、ブラジル全国選手権にも出てカズーって呼ばれるようになってね。必死だった頃を思い出す。多くをブラジルで学び、身についたことは今も続いている」

 例えば「今日、油断したら明日はない」という信念もそう。「肉体的や年齢的なもので言えば、試合で得点するより毎日練習する方が大変。極端に言うと得点はゴール前でボーッとしてても頭に当たって入ることがあるけど、毎日の練習はちゃんとした生活をして調整しなければ続かない」

 ブラジルは毎日が戦場だった。若手が練習で相手を挑発するようなプレーを見せようものなら、先輩選手から本気で削られる。し烈な競争を勝ち抜いた先に栄光のピッチがあった。食生活から体のケアまで準備段階でも手を抜くことはない。今も覚悟は変わらない。

 圧倒的なプロ意識もブラジルが源だ。例えば自己表現がそう。「メディアと距離を置いた時期もあった。不発って書かれると内容を書けよって。でも俺だから書かれる、それも価値と思えるようになった。ブラジルの取材はめちゃくちゃ。ホテルの部屋に電話したり、ハーフタイムに話しかけたり。でも書いてもらうのがステータスだった。僕はブラジル育ち。どちらかといえば子供の頃からマイクを向けられるのに憧れたからね」

 今なお、日本サッカーをけん引する。メディアに取り上げられることに価値を見いだし、エネルギーにも変えている。

 ブラジルが悲しみに暮れれば力になろうとするのは当然だ。昨年11月28日、多くの選手、Jリーグ関係者も犠牲となったシャペコエンセの航空機事故。カズにも縁がある元ブラジル代表でコメンテーターのマリオ・セルジオ氏(66)も帰らぬ人となった。「自分にも何かできないか、と。ジーコが慈善試合を計画しているという話も聞く。時間が許せばシャペコエンセに行ってみたい」。しみじみと言った。

 カズの「虎の穴」は青い海も白い砂浜も無縁の山あいに立つスポーツ施設だ。約2週間の自主トレ中、山を下りることはない。「観光客がいるでしょ。(自主トレ中は)そういう空気が好きじゃない」。専属マッサー、トレーナー、調理師らと山ごもりだ。

 グアムの朝は早い。5時50分に起床、夜明け前の6時20分から25分間走で一日は始まる。その後、午前はピッチで練習。コーディネーション、ステップワークを中心に体をいじめ抜く。午後は室内で体幹、筋トレなどバランス重視のメニューをこなす。これが、ある一日のスケジュールだ。

 昨季のカズは右足首の不安と戦い、シーズンも中盤以降、出場が減少した。それでも日本で権威ある医師の下、エックス線、MRI(磁気共鳴画像装置)検査を受けると「結果は悪くなかった」ことで前向きになれた。おまけに「膝はきれいだ」と言われた。カズは元々、関節が強い。天性のものでチームドクターは「奇跡の膝」と呼ぶ。長寿の要因の一つでもある。

 足首の補強はルーティンだ。縦と横、足首を起点に8の字を書く、指だけでバスタオルを巻き上げるなど地味な作業の連続。カズの額にじっとり汗が浮く。「やればやるほど良くなるからね」。そう話し、再び自分の世界に没頭する。

 従来、自主トレは1月だけだったが、3年前から12月も加え2段式となった。コンディションは明らかに向上。「ここ2年くらい(得点の)雰囲気はある。50歳でもゴールを決めたい」と話す。もちろんピッチに立てば年齢は関係ない。

 「基本的には皆、ライバル。香川も本田も、久保君もね!」とカズ。今月上旬には再びグアムに飛び、第2次自主トレが待つ。

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