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ルヴァン杯決勝PK戦キッカー辞退…深すぎる傷からはい上がれ

[ 2016年10月20日 09:40 ]

<ルヴァン杯決勝>PK戦でG大阪・呉屋のシュートを右足で止める浦和GK西川
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 ふと自分のサッカー人生を思い返してみた。一体、何本のPKを決めただろう。だが思い出されるのは失敗したシーンばかり。独特の重圧だけは今も鮮明に覚えている。失敗の傷は残っている。

 プロで、しかもファイナルの舞台ならば、横幅7・32メートル、高さ2・44メートルのゴールマウスがなおさら狭く、小さく見えるのは想像に難くない。運、不運もある。だがG大阪DF丹羽大輝(30)が「PKはメンタルですよ」と豪語した通り、気持ちの強弱は成否を左右する大きな要因だろう。

 10月15日、ルヴァン杯決勝戦。G大阪―浦和の1戦はPK戦までもつれ込んだ。G大阪は大卒ルーキーFW呉屋大翔(22)が失敗し、2年ぶりの優勝は叶わなかった。

 試合後の会見で、長谷川健太監督(51)は「他の選手に決めていたけど、その選手が“蹴りたくない”と言った。呉屋と目が合って“いきます!”と言ってきた」と当初とはキッカー役が代わった内幕を明かした。

 辞退した選手は過去、PKを2度失敗した苦い経験を持っていた。傷が彼を躊躇(ちゅうちょ)させた。それは仕方ないと思っている。ただ残念な気持ちにもなった。彼はハリルジャパン入りも期待される選手。失敗しても良いから蹴りにいって欲しかった。個人的見解だがクラブでの責任を背負えない選手が、日の丸の重みを背負えるとは思えないからだ。そう伝えた。

 それは彼も理解していた。そして、それ以上に「呉屋に責任を押しつけてしまった。自分が情けなかった…。(大阪への)帰りの新幹線内ではそればかりを考えていた」と自分が失敗する以上のダメージを受けていた。生半可な後悔や罪悪感ではない。ついつい愛妻に懺悔(ざんげ)してしまうほどだったという。だからだろう。「自分もチームを背負わなければいけない立場。次ああいうシーンがあれば1番手で蹴るくらいのつもりでいく」。深すぎる傷は、逆に彼の心を強くしたように思えた。

 代役キッカーが失敗したからこそ、クローズアップされたやり取り。きっとルヴァン杯で沸き上がった感情は、キャリアの大きな分岐点となる。その先には初めての日の丸舞台が待っているはずだ。

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