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久保 U―23で活躍のワケ 回り道じゃなかったスイスの2年半

[ 2016年2月19日 09:00 ]

イラク戦でゴールを決め、喜ぶ久保

 スイスを選択して本当に良かった――。心の底から感じた瞬間だった。

 2016年1月26日。リオデジャネイロ五輪出場を懸けたアジア最終予選準決勝U―23イラク代表戦。前半26分にFW久保裕也(ヤングボーイズ)が得点を奪った時だ。

 12年7月。当時J2京都に在籍していた久保は7月末の千葉戦を終えると、1泊3日の弾丸日程でスイスに飛び立った。1年間は期限付き移籍の形を取って京都でプレーしたが、保有権はヤングボーイズに移った。そして翌13年7月13日のシオンとのリーグ開幕戦。晴れて欧州デビューを果たした。それから2年半。スイスの強豪で試合出場を続けてきたが、ほとんど久保のプレーが報道されることはなかった。

 それも当然だろう。ACミランには日本代表FW本田、インテル・ミラノにもDF長友がいて、ドイツ1部にはドルトムントのMF香川ら大勢の日本人選手が在籍する。プレミアリーグではDF吉田やFW岡崎が存在感を発揮している。日本代表の常連でもなく、4大リーグでもない久保にスポットライトが当たらないことは仕方なかった。ただリオ五輪アジア最終予選で唯一全6試合に出場して3得点。スイスでの成長は一目瞭然だった。

 もはやJリーガーが海外リーグを目指すのは当たり前の時代になった。レベルの高いリーグでプレーしたいと考えるのはプロ選手として当たり前だろう。Jを軽視するわけではないが、若い選手はドンドン挑戦すれば良いと思う。その欧州リーグの移籍先を選択する上で何が一番大事なのか。自身の希望か。リーグの格式か。欧州カップ戦の舞台に立てるかどうか。いろいろあるが、僕個人としては試合に出場できる可能性が高いかが最も大事なファクターだと感じている。オーストリア1部ザルツブルクへ移籍したFW南野も同様だが、端的に言ってしまえば欧州リーグへの入り口はクロアチアでもポーランドでも良いのでは…と思っている。

 1メートル78と決してFWとしては大柄ではない久保は、欧州で戦っていく術を模索した。胸板は一回り以上も分厚くなり、体の使い方やボールの受け方は格段に進化した。守備の意識も高くなった。昨夏からは得点の確率を高めるためのフリ―ランニング向上にも着手し始めた。何よりもイラク戦で見せたように、大事な試合で得点を取れる強い精神力。それは出場できるかどうかのギリギリの競争の中で培われた力、試合に出場し続けたからこそ身についた部分だ。もしもドイツやイタリアへ移籍して出場機会が与えられていなかったならば、どうなっていたかは分からない。

 18歳時の久保に聞いたことがある。「今、4大リーグのクラブからオファーが届いたらどうするのか?」と。彼は少し考えた後「今は試合に出ることが重要なんで…」と答えた。早期の海外移籍を希望する一方で、将来的なセリエAでのプレーを見据えて、まずは試合出場しやすい環境に入ることを優先させていた。

 そして今、欧州各国スカウトは久保に目を光らせている。ヤングボーイズ関係者によると、観客席ではドイツやイタリアのクラブスカウトの姿もよく見かけるという。陸続きの欧州は移動もしやすく、生の情報も得やすい。昨年末にはフランクフルトが興味を示したという報道も出たが、それは「久保裕也」の名前が広がりを見せてきている証拠でもある。欧州に入ってしまえば、あとは自分次第。試合に出場して結果を残していけば、チャンスは無限大に広がってくる。スポットライトを浴びなかった2年半は、回り道ではなかった。(記者コラム・飯間 健)

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2016年2月19日のニュース