×

【オシム分析1】「個の武器」なくても集団で主導権

[ 2014年7月1日 10:40 ]

オランダに自由を与えなかったメキシコの守備陣(AP)

 W杯は決勝トーナメントに入り、好ゲームが続いている。ブラジルがチリに辛勝、オランダも際どくメキシコを破るなど、時代の変化が垣間見える。元日本代表監督イビチャ・オシム氏(73)が注目の2カードとスペイン敗退の原因を検証した。

 今大会はチリとメキシコが面白いサッカーをしていた。一見、スペインとは異なるタイプだが、よく走り、人数をかけて、漁師の網のように相手からボールを奪い取る。前線からの素早い守備、組織的なプレッシングは共通している。4年前のスペインが精密機械だとすれば、両国はアグレッシブさで上回る漁師か狩人の集団だ。

 【美しいサッカーを捨てたオランダ】

 初戦でスペインを破ったオランダは「壊し屋」に徹し、主導権を相手に渡しながら鋭いカウンター戦法で成功した。この試合でも、終了寸前に逆転し、かつての崩れやすいイメージを返上する勝負強さを感じさせた。

 数十年間、なんのタイトルも獲っていない「褒美」として、今回、上位に進出させてもいいかと思う。オランダには知人が多いが、やはりオランダのサッカーが世界一美しいと言っている。今回の代表はそれほど美しくはないが、効率的で、必要なことを必要なタイミングで実行できる。パワープレーとPKでの逆転劇は、美を捨てて勝負に徹したものだろう。オランダらしくない今回は、美しくないが強い。だが「トータルフットボール」を生み出した国として、オランダの攻撃的で流動的なサッカーを見たいと思っていた者にとっては物足りない。

 【集団の力を見せたメキシコ】

 褒めるべきはメキシコだろう。体格でハンデがあり、ロッベンのような「個の武器」もないが強烈なプレッシャーで主導権を握り、集団の力でオランダを自由にさせなかった。その基本にあるのは、シュートのようなパスでも足元に止められる個人技と、簡単にはボールを奪われない球際の強さ。そして強い相手にも果敢に立ち向かう勇敢さだ。これに規律・戦術が加わり、あと一歩のところまで「オレンジ色のライオン」を追い詰めた。給水タイムが必要なほど気温が高くなかったら(試合開始時で32度)、別の結果になっていたかもしれない。

続きを表示

2014年7月1日のニュース