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名波浩氏指摘 1ランク上目指し競争  課題は単純ミスと右からの攻撃

[ 2011年1月31日 10:15 ]

オーストラリアのエース・キューウェル(右)をがっちりマークする長谷部

アジア杯 決勝 日本1―0オーストラリア

(1月29日 カタール・ドーハ)
 2大会ぶりのアジア制覇を果たした日本代表はカタールでの激闘を通して大きく成長した。決勝のオーストラリア戦を含めた全6試合で見えた収穫と課題は何なのか。テレビ朝日の解説で現地でザックジャパンを密着取材した00年アジア杯レバノン大会MVPでスポニチ本紙評論家の元日本代表MF名波浩氏(38)が分析した。

 外から見ていてここまで感動する大会はそうはない。バルセロナやインテルの試合よりも心に響くものがあった。

 日本はオーストラリアに研究され、早いタイミングでどんどんロングボールを放り込まれた。今大会は主導権を握って自らアクションを起こす試合が多かったが、決勝では自分たちのリズムで試合を運べない時間帯が増えた。その中で最後まで無失点で耐えられたのは、守備重視の戦いで16強入りした(昨夏の)W杯南アフリカ大会での経験が生きたからだと思う。タイトルの懸かった試合では我慢強く戦うことも必要だし評価できる。

 大会を通してザッケローニ監督の采配はさえていた。退場者が出て数的不利になる試合が2回もあるなど厳しい決断を迫られる場面が多かったが、裏目に出たのは5バックにして終了間際に失点した韓国戦の布陣変更ぐらいだったと思う。

 日本をほとんど知らない状況で昨年8月に就任して、選手選考の時間が少ない中でJリーグの試合に献身的に足を運び自ら選んだ選手を信じて起用していた。練習前後に選手をつかまえて話している内容もポジショニングや連係面の細かい話などコアなものが多く、しっかりとコミュニケーションを取れている印象。途中出場の選手が次々とゴールを決めるなど結果が出たことで、選手との信頼関係はより深まったはず。中東に引き抜かれないか心配になるほどの指導力を発揮していたと思う。

 本田圭のMVPには納得だが、長谷部、長友も同じぐらいの貢献度があった。長谷部は献身的な守備が光り、要所要所で相手のスピードを止めていた。遅らせなければならないシーンでの効果的なファウルなどクレバーなプレーも目立った。

 長友はすべての試合でサイドを制圧していたし、2人は代えの効かない選手だ。本田圭は準決勝、決勝の2試合でボールのない時の動きの質が格段に上がり「守→攻」の切り替えの速さは抜群だった。遠藤、長谷部、岡崎、香川らと絡めることは実証したし、前田との連係面が向上すれば攻撃のバリエーションはさらに増える。前田とは互いにプレーしやすい距離感を確認するなどの、すり合わせを行ってほしい。

 大会を通して課題も見えた。どの試合でも単純なミスが出る時間帯があるのは気になった。意図するプレーを狙ったミスなのか、それとも手詰まりになり、どうしようもない状況でミスを犯したのかによって意味は全然違うので、今後のレベルアップに向けて突き詰めていく必要がある。

 攻撃は左サイドに比べて右の迫力がないことは否めない。左は1対1で勝負するのか、数人が絡んで崩すのかがはっきりしているが、右は内田が孤立した状態でパスを受ける場面が目立った。最終ラインとGKの連係や、ラインコントロールのズレなど細かい修正点は多い。

 次の目標となる南米選手権にはアジア王者として胸を張って臨める。アジア杯では勝たなければならないプレッシャーがあったと思うが、次は失うものはない。南米で真剣勝負をできる機会は少ないし、14年W杯ブラジル大会に向けても貴重な経験になる。

 主将の長谷部がオーストラリア戦後“アジアでは追われる立場になったが、前に進まないと世界からはどんどん置いていかれる”とすぐに前を見据えていたことは頼もしく感じた。闘莉王、中村憲、森本、宇佐見、家長らこのチームに入らないといけないレベルの選手は他にもいるし、ここからまた競争が始まる。若い選手がアジア杯の経験を生かしてもう1ランク上のチームになることを期待したい。

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2011年1月31日のニュース