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うまさとたくましさ スペインは近代サッカーの理想形

[ 2010年7月1日 15:08 ]

<スペイン・ポルトガル>ポルトガルのDFペペ(左)をかわして突破を図るシャビ

 【西野朗氏のスペシャル興奮観戦記 スペイン1―0ポルトガル】スペインは1次リーグ初戦でスイスに敗れたが、敗戦によってチーム全体に危機感が生まれた。2戦目以降は安定した本来のスペインらしいパスサッカーになってきた。

 フェルナンド・トーレスがまだ本調子でないのが不安材料だが、ポルトガル戦では後半13分にジョレンテを入れて流れが変わった。スペインはもともと前線にスピードのある選手を置くスタイルだが、スピードで勝負するフェルナンド・トーレスに代わって1メートル94のジョレンテが入り、攻め方に変化が出た。ジョレンテにパスを入れて相手DFを引きつけることでビジャのマークが手薄になった。ポゼッションできていたからFWを代えるのは難しかったと思う。デルボスケ監督の決断は素晴らしかった。

 スペインは他のチームにない独特のスタイルを持っている。細かいパスつなぎ、相手が引いて守っていても、個人戦術やパスで崩す力がある。こういうサッカーができるのは、いいゲームメーカーがいることが一番大きい。シャビから前線のフェルナンド・トーレスやビジャに精度の高いパスが出る。シャビのパスは受けた選手がその次のプレーをしやすいから、チャンスになる。シャビ自身がマークされて苦しくても、その局面を抜ければ一気にチャンスになる。

 もうひとつ。どこを攻められるのが相手にとって一番嫌なのかを考えて攻撃している。例えば日本は攻撃するときにまずサイドから行く。守る相手の人数が少ないサイドは攻めやすいからだ。サイドから崩して中央で勝負する。スペインは逆。まず中央のターゲットにパスを入れていく。ワンタッチでさばいてチャンスになればそれでいい。抜けられなかったら相手の守備を引きつけ、サイドが空いたところで、サイドに展開する。こういう縦のボールの使い方がうまい。

 ゴール前でがっちりマークされているターゲットにパスを入れるのは勇気がいることだが、相手DFもファウルを取られたくないから、対応しにくいものだ。本当は一番有効な攻め方だ。こういうパスはタイミングが重要だ。スペインは出し手と受け手との呼吸が合っている。そして何より受け手の動きだしが早いから、難しい状況でもパスが通るのだろう。

 スペインでは国内リーグで一年中こういうサッカーをやっている。特にバルセロナなど強豪クラブは、常に相手が引いて守備を固めているから、勝つためにそれを破らなければならない。シャビやイニエスタらは、バルセロナの下部組織時代からずっとそういうサッカーをやってきている。以前のスペインは、うまいけど、スケールが小さかった。だが、今はうまくてたくましくなった。守備面でもFWも含めて全員で守る。近代サッカーの理想の姿といっていい。(G大阪監督)

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2010年7月1日のニュース