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【メダリストは見た】森田智己氏 1メートル56エース奥原の強さ

[ 2016年8月17日 13:00 ]

女子シングルス1回戦 韓国選手に勝利し、準々決勝進出を決めた奥原

リオデジャネイロ五輪バドミントン女子シングルス1回戦

(8月15日 リオ中央体育館パビリオン4)
 バドミントン女子シングルスで、身長1メートル56の小さな日本のエース、奥原希望が準々決勝に進出した。かつて1メートル69の小さな体で欧米の大男たちとしのぎを削り、04年アテネ五輪男子100メートル背泳ぎで銅メダルを獲得した森田智己氏(31)が“無差別級”の競技の難しさや魅力を語った。

 奥原選手はまったく危なげない戦いぶりでしたね。決勝トーナメントまできたら、弱い相手なんていないと思うんですが、随分と実力差があるように見えました。自分のペースでプレーする奥原選手には余裕すら感じました。

 彼女は最初の一歩がとても速い。運動量もある。片足を大きく前に出して打っても、体を大きく後ろに反らして打っても体の芯がブレない。しっかり体を鍛えている印象です。相手の韓国人選手は1メートル56の奥原選手より10センチ近く大きかったです。世界のトップには20センチ以上大きい選手もいると聞きます。その中で平均的日本人のサイズである奥原選手が戦っていくには相当の覚悟と厳しいトレーニングがあったと察します。

 やはり多くのスポーツで、体の大きな選手は有利です。まず蓄えられるパワーが違います。背の高い選手は腕も長く、バドミントンでは打点が高くなるし、カバーできるエリアも広くなると思います。水泳でも大きなストロークで泳げる背の高い選手は圧倒的に有利です。

 私は身長1メートル69。日本人の成人男性の平均よりも小さい選手でした。現役時代、世界のライバルたちはみな1メートル90くらいありました。国際大会に出始めた頃は、みんな大きいなぁと、つくづく感じたものです。彼らの隣で泳いでいて、頭が同じ位置だったら、絶対に勝てません。筋肉の量も絶対にかないません。階級別の柔道がうらやましいな、身長別の競泳がないかな、と思うこともありました。

 でもそんなことを考えていても仕方がない。私はパワーでは勝てないから、テクニックでは絶対負けない、という気持ちでトレーニングに励みました。特にこだわったのはスタートとターンでした。入水の角度、最初のバサロキックを入れるタイミング、浮き上がりの角度…。どうやって勢いをつけて、どう勢いを殺さないか。考えて、工夫して練習しました。全体練習後に残って個人的にスタート練習することもありましたし、誰よりも練習したと思っています。そうやって自信をつくっていきました。だからレース前に選手招集所に行って、大男たちに囲まれても気後れすることもありませんでした。奥原選手も凄く堂々としていますよね。きっと海外の選手に負けないスピードやフットワークを身につけるために、相当な努力を積んできたと思います。

 私は世界ではいつもぎりぎりの勝負になると思っていました。小さい選手が圧倒的に勝てるほど甘くはありません。だから、私は最後のタッチの時はいつも指が折れてもいい、ぐらいの気持ちでした。実際に指を折ったこともありました。五輪になれば、なおさらです。アテネ五輪の時は、指導を受けていた鈴木陽二コーチと話し合い、決勝では「前半抑えめに入って、ラスト10メートルで勝負」と作戦を立てました。プラン通りに前半に力をためて折り返し、後半に入って勝負をかけました。レースは混戦となり、最後に思い切りタッチ板を叩きました。結果は3位。4位とは100分の2秒差でした。
 そんなぎりぎりの勝負の繰り返しですから、勝ちたいと思えば、つい無理もしてしまう。アテネ五輪後の私はさらに速くなるにはもっと練習をしなければいけないと思って、追い込みました。その結果、腰を痛めました。しっかり治せばよかったけれど、休む勇気がなかった。ごまかしながら練習を続けて、なかなか本来の泳ぎができませんでした。
 奥原選手は2度膝の手術をして、長期間休養したと聞きます。やはりあの小さい体で戦っていくのは、大きな負担がかかっていたのでしょう。でもしっかり治して、今、最高の舞台に立っている。先のことを考えて、手術する決断をしたことも凄いことだと思います。

 ベスト8に入りました。競泳で言えば、ファイナリストになったということです。ただ、次に同じ日本チームの山口選手との対戦になったのはちょっと複雑な気持ちです。できれば、違った組み合わせにしてあげたかった。1対1の勝負というのは、こういう時に嫌ですね。競泳だったら、一緒にワン・ツー目指して頑張ろう、となるんですけどね。
 最近は大きい選手も増えてきましたが、総じて日本人選手は小さいです。その小さな日本人選手が大きな海外の選手を打ち負かすことがあるのが、“無差別級”の競技の面白さだし、魅力だと思います。これから世界を目指す若い選手や子供たちには、サイズを理由に諦めてほしくない。奥原選手の活躍はきっとそんな若い子たちの励みになると思います。小さな選手の仲間として、今後も応援させてもらいます。

 ◆森田 智己(もりた・ともみ)1984年(昭59)8月22日、宮城県生まれの31歳。東北高―日大卒。04年アテネ五輪で100メートル背泳ぎ銅メダル、400メートルメドレーリレー銅メダル。08年北京五輪では100メートル背泳ぎ準決勝で敗退し、現役引退。現在は柔道整復師の資格を持ち、整形外科に勤務している。1メートル69、68キロ。

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