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【世界のアスリート】ヒジャブ着用剣士 世界のムスリムに勇気

[ 2016年8月10日 12:05 ]

ヒジャブを着用し試合に臨むムハマド(AP)

 敬虔(けいけん)なイスラム教徒。女性の場合、何かスポーツをしようと思うと制約を受ける。頭と体を覆う布…。つまりヒジャブを巡っては、その着用を禁止された女子バスケットボールのカタール代表がアジア大会で試合を放棄したケースもある。

 イブティハージ・ムハマド(30)の両親は米国のムスリム(イスラム教徒)としてニュージャージー州メイプルウッドに住んでいた。娘にスポーツをさせたかったが、肌を露出できないために球技などはその対象外。しかしどんな選手も肌を露出しない競技があることに気づいた。

 それがフェンシング。ムハマドは13歳から競技を始め、すぐに才能を発揮した。頭脳も優秀で、学業の難関校として知られるデューク大では2つの学位を取得した才女。そして10年に米国の代表チームに選出された。

 リオデジャネイロは初五輪。8日のサーブルでは2回戦で敗れたものの、彼女には「ヒジャブを着用した米国最初の五輪代表」という歴史的な肩書がついた。「自分のためではないんです。同じ立場にいる世界中の人たちとその社会に何か変化があればいいと思ったからこそ、私はここにいます」。メダルは獲れなかったが、彼女が握った剣は何か特別なものを観衆に感じさせた。

 米国では一連のテロでイスラム社会に対する風当たりは強い。しかしその一方で、純粋な汗を流す清廉なアスリートもいる。「私の存在を知って、後に続いてくれる人が出てくればいいなと思います」。すでにムスリム用のアパレルメーカーを立ち上げ、スポーツ親善大使としても世界中を回っている。汗を吸い込んだムハマドのヒジャブ。勝利よりも大切なものが彼女を包んでいた。

 ◆イブティハージ・ムハマド 1985年12月4日、ニュージャージー出身の30歳。デューク大ではスポーツではなく学業の奨学金を得て卒業。フェンシングではオールアメリカに3度選出された。14年世界選手権では米国の団体優勝に貢献。1メートル70、66キロ。

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2016年8月10日のニュース