【宝塚記念】ジェネシス100点!“華麗なる変身”オオゴマダラの羽化のよう

[ 2020年6月23日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

<宝塚記念>達眼・鈴木氏は大阪杯からさらに成長したクロノジェネシスの馬体に100点満点のジャッジ
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 グランプリを制するのは蝶(ちょう)のように舞う南国の貴婦人か。それとも、芭蕉布(ばしょうふ)をまとう貴公子か。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第61回宝塚記念(28日、阪神)ではクロノジェネシス、サートゥルナーリアに満点を付けた。先週、沖縄を旅した達眼が捉えたのはオオゴマダラ(沖縄の県蝶)を思い起こすジェネシスの華麗なる変身と、芭蕉布のようなナーリアの薄い皮膚。有力候補のボディーを梅雨明けした沖縄の夏の風物詩になぞらえながら解説する。

 国内最大級の蝶で知られるオオゴマダラが沖縄慰霊の日にあたる23日、沖縄平和祈念堂(糸満市摩文仁)から放蝶されます。県民の4人に1人が命を落とした沖縄戦。馬の戦没調査は行われていませんが、統計資料(都道府県農業基礎統計)によると、44年の県内飼育馬3万1914頭が45年の沖縄戦を挟んだ46年には7731頭に激減。4頭に3頭が犠牲になったと推定されています。戦没者(戦没馬も)への鎮魂と平和の願いが込められた県蝶オオゴマダラは沖縄戦終焉(しゅうえん)の地、摩文仁の夏空へ、白地に黒いまだら模様の13センチにも及ぶ大きな羽を広げます。

 その美しい姿は「南国の貴婦人」、その優雅な羽ばたきは新聞紙が風に舞っているように見えるため「新聞蝶」とも呼ばれるらしい。沖縄で暮らす娘家族に会うため同県を訪問した先週、そんな県蝶の成長物語を耳にしました。幼虫時代には外敵の鳥に捕食されないよう体内に毒を取り込み、やがて金色のサナギに変わります。鳥は金属光沢を嫌うため金色に輝いて身を守るそうです。金色のサナギから羽化して「南国の貴婦人」が誕生します。

 その華麗なる変身はクロノジェネシスの成長物語に置き換えられる。昨春までは蝶が舞うような軽快さと柔軟さを併せ持つ一方で、薄っぺらなトモと巻き上がった腹が頼りなく映りました。幼虫のジェネシスです。ところが、3歳夏を境にトモに見違えるほど筋肉がついた。桜花賞、オークス(ともに3着)時には430キロ台前半だった馬体重が20キロ近く増えていました。サナギのジェネシスです。そして、今回。大阪杯から2カ月半しかたっていないのに腹周りがふっくらと丸みを帯び、幅が出てきた。著しい成長。羽化が始まったのです。

 元々、骨格はスリムでも蝶のようにバランスが取れた馬体。トモから飛節、球節、つなぎ、蹄まで各部位が過不足ない大きさと絶妙な角度でリンクされています。筋肉マッチョなマイラー体形の半姉ノームコア(昨年のヴィクトリアマイル優勝)とは対照的なしなやかで繊細な筋肉を身につけた中距離体形。姉が造形美なら、妹は機能美の名牝といっていい。そこに馬体の幅まで加わったのです。見栄えしづらい芦毛なのに毛ヅヤが光っている。「南国の貴婦人」と呼びたくなる姿です。

 競走馬のオオゴマダラは大きな羽を広げてどこまで飛翔するのか。摩文仁の夏空を舞う県蝶にその姿をダブらせてみたい。せめて今日ぐらいは競馬が続けられる恒久平和を祈りながら…。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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