【日本ダービー】“難敵”高周波なくなり超伏兵の出番も

[ 2020年5月28日 05:30 ]

静かに、熱く――76年ぶり無観客ダービー(4)

追い切り後に厩舎周りで運動するコルテジア(撮影・亀井 直樹)
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 76年ぶりに無観客で開催されるダービー。例年、東京競馬場には10万人を超える大観衆が詰め掛け、マンモススタンド前のゲート、直線走路に地響きのような声援や絶叫が降り注ぐが、今年はそれがない。無歓声は出走馬にどんな影響を与えるのか。

 東京競馬場を訪れた文豪・菊池寛が歓声のないレースに独り言をつぶやいたのは76年前のダービーだった。太平洋戦争の激化により「能力検定競走」として無観客で行われた1944年の第13回ダービー。所有していたトキノチカヒが9着に敗れた直後の様子が評伝に記されている。

 “菊池はステッキに凭(もた)れるようにして、「歓声がないと馬も走らない」と、ポツンと言った”(「口きかん~わが心の菊池寛」=矢崎泰久著、03年飛鳥新社発行)。

 「菊池寛の言葉には一理あります。負け惜しみでは片付けられません」と語るのが馬の心理学、行動学に詳しい農学博士の楠瀬良氏(元JRA競走馬総合研究所運動科学研究室長)だ。「馬によって個体差がありますが、サッカー選手のように歓声を受けてアドレナリンが上がる馬はいます。もっと多いのはビビって発汗する馬。前者はレースで頑張れるが、後者は力を出し切れないから歓声が聞こえないように耳覆い(覆面)をつけるケースが多い」。楠瀬博士らの実験で、録音した競馬場の歓声をJRAの元競走馬と欧州から輸入した乗馬に聞かせたところ、乗馬は無反応だったが、元競走馬の心拍数は急上昇した。ドキドキしながら競馬の記憶を呼び戻すほど歓声は競走馬に大きな影響力を持っているのだ。

 「馬は総じて音に敏感ですが、高周波には特に反応しやすい。歓声にはあらゆる種類の音が含まれていて、高周波も混じっているのです」。馬は音の刺激に慣れやすい動物とはいえ、さまざまな周波数が混ざっている歓声は短音刺激よりも心拍数を増加させる。人間の可聴域は最高2万ヘルツだが、馬の場合は最高3万ヘルツ。人間には聞き取れない2万ヘルツ超の高周波(超音波)にも反応するだけに無観客(無歓声)の競馬はレース結果にも影響しているはずだ。「音にイレ込むような馬にとっては高周波という見えない敵がいなくなる。音のせいで力を出せなかった馬が大穴をあけるかもしれません」

 楠瀬博士の仮説をデータも裏付けている。単勝100倍以上の超伏兵が馬券に絡んだ回数は過去10年で最多のペースだ。ダービー出走予定馬の中から音に敏感な大穴候補を探せば、2歳時から耳覆いを着用しているコルテジア。あるいは、無観客競馬で興奮しなくなったウインカーネリアンか。逆に、調教では動かないのに競馬場で歓声を浴びた途端に走りだす馬はアドレナリンが上がらない。「歓声がないと馬も走らない」。76年前と同じ恨み言が聞こえてくるかも。

 ≪コルテジア大穴実績≫無観客ダービーの大穴候補として浮上したコルテジアはきさらぎ賞をブービー7番人気で制した大穴実績がある。シンボリクリスエス産駒は総じて耳が大きいと言われるが、この産駒の耳もロバのように特大だ。大きな耳は集音力が高いから歓声に敏感なのだろう。無歓声の大一番で再び波乱を起こすか。

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