ヴィクトワールピサの凱旋門賞断念は…“馬ファースト”角居師だからこその決断

[ 2019年4月19日 05:30 ]

 【競馬人生劇場・平松さとし】今年のドバイミーティング。私たち日本人にとってメインはドバイワールドCではなくドバイターフだった。アーモンドアイが完勝。日本馬にとって久しぶりの海外G1制覇を成し遂げたレースだ。

 ドバイでの日本馬の勝利で思い出されるのは、やはりヴィクトワールピサのワールドC制覇(11年)だろう。東日本大震災で日本列島が大打撃を受けた直後、日本馬として初めてワールドCを優勝してみせたのだ。

 「こんな状況の中、競馬のために外国へ飛んで良いのか悩みました」

 角居勝彦師は当時、そう吐露した。結局、遠征に踏み切ったのは好結果を残すことで少しでも被災地に勇気を届けられれば…という思いからだった。そして、結果的に見事にそれを成し遂げたのだ。

 当時、被災したのは人ばかりではない。野馬追(のまおい)で知られる福島県相馬地区をはじめ、多くの牧場で馬たちも被害に遭った。津波で流されて行方不明になった馬や、人の救助が優先されるために命を落とした馬も多数いた。角居師は、のちに引退後の競走馬のセカンドライフを支援する事業を立ち上げるのだが、当時の出来事が少なからず影響をしていたのも事実だろう。

 ちなみにヴィクトワールピサはドバイを勝った年の秋には凱旋門賞を目指し、勇躍フランス入りした。しかし、現地で脚元を痛めると、すぐに挑戦を断念し帰国した。ジャパンCには出走しているのだからケガ自体は軽症だったことが分かる。少なくない遠征費をかけて現地入りした馬を、軽症にもかかわらず帰国させた点に伯楽の馬中心に考える姿勢が垣間見えた。17日にはアーモンドアイの凱旋門賞挑戦断念というニュースが流れ、多くのファンが肩を落としたが、結果的にこれも英断となったと考えたい。

 そして同じ17日に星となってしまったのがシャケトラだ。角居師の胸の内を思うとやり切れない。どうかシャケトラが安らかに眠ってくれることを願うばかりである。 (フリーライター)

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2019年4月19日のニュース