【ホープフルS】サートゥル95点!2歳で名君の風格

[ 2018年12月25日 05:30 ]

弾力性に満ちた上質な筋肉を持つサートゥルナーリア
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 2歳王者の耳はロバの耳!?鈴木康弘元調教師(74)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。平成の2歳G1を締めくくる「第35回ホープフルS」(28日、中山)ではサートゥルナーリア、アドマイヤジャスタにそれぞれ最高点を付けた。達眼が両馬から捉えたのは大きな耳を持った王の輝きと、王も魅了した名馬の美しさ。世界の民話、民謡を例に挙げながら有力馬の立ち姿を解説する。

 ある国にわがままで乱暴な王様がいました。王の悪口を言おうものならたちまち処罰されてしまうので、家来たちは王様のご機嫌を取るイエスマンばかり。そんな王様には秘密がありました。耳がロバのように大きくて毛むくじゃらだったのです。王の髪を切った際に秘密を知ってしまった理容師は固く口止めされますが、我慢できません。人里離れた森に穴を掘り、その穴の中へ向かって叫びます。「王様の耳はロバの耳!」。やがて、そこから生えてきた葦(あし)が風にそよぐたびに理容師のせりふをささやくようになり、王様の秘密は国中に広まって…。

 イソップ物語などで有名になった民話「王様の耳はロバの耳」。サートゥルナーリアの立ち姿を初めて目にした私も、思わず理容師と同じ言葉を口にしました。「ロバの耳」。耳をしっかり立てている分だけ、よけい大きさが目立つ。デカい耳は名馬の相とも言われますが、その主張に説得力はありません。馬は音に敏感。集音力の高い耳なら、必要以上に音を拾ってしまう。音が聞こえる方向へ気を取られたり、イレ込んだりしやすい。物事にはすべからく適正サイズというものがある。馬相学からも好ましくありません。

 だが、耳を除けば…。全てが完璧なつくりです。弾力性に満ちた上質な筋肉。深いトモ(後肢)とそのパワーを推進力に変える飛節、膝も引き締まって絶妙な角度です。背中が短く映るほどキ甲(首と背中の間の膨らみ)が後ろにもせり出しています。各部位が滑らかにリンクしているため全体にとても余裕を感じる。ヒ腹に十分な張りがありながら肋(あばら)がパラッと見える仕上がりです。名牝シーザリオの子。デビュー2戦とも楽勝。そんな血統と成績を知らなくても、ひと目で走ると分かる馬体です。

 2歳にして立ち姿には王の風格があります。目を輝かせ、鼻の穴をしっかり開きながら、大地を力強く踏みしめています。にもかかわらず、ハミはゆったり取っている。気迫と余裕が共存する、2歳馬ではあり得ないたたずまい。太い尾が前方から吹く木枯らしに心地よくなびいています。森の葦が風にそよぎながら理容師のせりふをささやくように…。

 「わしの耳のことは知れ渡ってしまったので隠しても仕方あるまい。ロバの耳を持っていても立派な王になってみせよう」。王様は秘密を口にした理容師を許し、改心して名君になったとか。サートゥルナーリアもロバの耳を持ったままターフの王になれる逸材です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の74歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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