【凱旋門賞】4000勝・武豊、次なる偉業は“下剋上”世界一

[ 2018年10月2日 05:30 ]

武豊(撮影・平嶋 理子)
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 「凱旋門賞」(日本時間7日午後11時5分発走、パリロンシャン競馬場)に、クリンチャー(牡4=宮本)で挑む武豊(49)が1日に渡仏。決戦を前に、本紙の単独インタビューに応じた。前人未到のJRA通算4000勝を達成した同騎手が世界最高峰のレースに挑むのは5年ぶり7度目。相棒がG1馬でないことから現地での下馬評は低いが、“下克上”での悲願の世界一へ向けた熱い胸の内を明かした。

 ――前哨戦のフォワ賞(9月16日)ではクリンチャーは最下位6着。凱旋門賞でもノーマークの存在だが。

 「もちろん伏兵だと百も承知ですよ。仏メディアも今までの日本馬に比べると注目度は低い。あまり見向きもされない理由の一つはG1馬ではないからだと思います」

 ――それでもチャンスはある。

 「ゲートに入ることができる限りは、(どの馬にも)必ずチャンスはある。ジェニアルなんて日本で特別戦すら勝っていないのに(500万条件馬)、フランスでG3(7月22日、メシドール賞)を勝った。環境や馬場にフィットしてガラッと変わる馬は実際にいるし、トライすることが重要であるのは明白。特にクリンチャーは実戦を使って良くなるタイプだし、これまでの成績で分かる通り、意外性(※1)も魅力ですね」

 ――新装されたパリロンシャン競馬場の感想は。

 「黄金色のスタンドですか。派手ですよね。日本人の発想なら建物のカラーで金色はないでしょう。コースでいえばオープンストレッチ(※2)に賛否両論あるというか…。ジョッキーには割と不評ですかね。個人的にもあまり好きではない。強い馬が内に閉じ込められて動けなくなるのも競馬。それが挑む側にとって戦略の一つだけど、オープンストレッチでは直線に向くと内がガラッと開けてしまうんだからね。強い馬が(馬群に)包まれて負けるケースは減るでしょうね」

 ――馬場は?

 「カチカチに硬い馬場でフランスっぽくない。芝が根付いていないのか、剥がれやすかった。特に内側の馬場は良くなくて、むしろ外めの方が伸びそうな感じでしたね。ただ、あの週はずっと好天続きだったのが影響したかもしれません。例年なら雨の多い季節だから本番はまた違うと思います」

 ――雨はクリンチャーにとって歓迎か?

 「大歓迎。(極悪馬場の)菊花賞で、あれだけのパフォーマンス(2着)を演じたのだから、ぜひ降ってほしい。過去に凱旋門賞に挑んだ日本馬には大抵“良馬場で走らせたい”と口にしていたけど、クリンチャーは重馬場が希望。新しいケースです(笑い)」

 ――いよいよ凱旋門賞ウイーク。

 「やっぱりワクワクします。当週になると、フランスのシャンゼリゼ通りには凱旋門賞の広告がズラッと並んで、街が一気に凱旋門賞モードになりますね。競馬を知らないフランス人が途端に競馬に興味を示すから面白い。フランスの秋の風物詩の一コマがシャンゼリゼ通りに現れている。カタールがスポンサーになって以降は盛り上げ方が上手」

 ――当日は。

 「競馬場周辺は大渋滞。普段、車でスイスイと走れる光景を知っているから、その落差に驚きますよ。あの光景に今日は特別な一日だと知ることができる。僕自身も(パリ近郊の)シャンティイや(北西部の)ドーヴィルで乗る時なら軽装で競馬場入りするのに、この日だけはスーツ姿。そういうのがふさわしい舞台ですからね。凱旋門賞出走を誇りに感じる瞬間は?とはよく聞かれる質問だけど、それはパドック。日本でもG1の時に騎乗命令がかかるまでジョッキーがオーナーや調教師と談笑したり、記念写真を撮ったりする光景があるじゃないですか。あの瞬間ですよ。凱旋門賞のパドックなんておしゃれに着飾った人ばかりだし、まるで絵はがきのような光景ですからね」

 ◆武 豊(たけ・ゆたか)1969年(昭44)3月15日生まれ、滋賀県出身の49歳。87年に栗東・武田作十郎厩舎所属でデビュー。年間最多勝に歴代最多の18回輝いたほか、歴代最多のJRA重賞通算329勝、ダービー最多5勝を含むG1通算75勝など数多くの記録を保持している。日本騎手クラブ会長なども歴任。父は名騎手で知られた故武邦彦調教師、弟は武幸四郎現調教師。

 (※1)クリンチャーのデビュー戦は見せ場なく12着。だが中1週で臨んだ3歳未勝利戦では、単勝244・8倍の最低14番人気ながら、果敢にハナを奪って逃げ切り勝ち。ファンを驚かせた。また、極悪馬場の中で行われた17年の菊花賞は、ロングスパートを仕掛け、10番人気で2着。3連単のレース史上最高配当55万9700円を演出した。

 (※2)オープンストレッチは90年代に米国のトロットレースで発明され、フランスでの導入は初めて。パリロンシャンに新設されたものは、ゴールまで450メートル地点から内ラチがさらに内へ約6メートル広がるもの。インコースを広く開けることで、各馬の進路をフェアに確保することが目的。馬群に包まれて負ける可能性が減少し、紛れのない勝負が期待できる。

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