【スプリンターズS】ファルクス100点!不老長寿の柔軟性

[ 2018年9月25日 05:30 ]

筋肉が柔軟なレッドファルクスの立ち姿。昨年のスプリンターズSと比べて馬体に衰えはない
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 短距離界のレジェンドが史上初の同一G1・3連覇へ。鈴木康弘元調教師(74)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。「第52回スプリンターズS」(30日、中山)ではレッドファルクスに唯一満点を付けた。達眼が捉えたのは7歳秋を迎えても衰え知らずのスーパーボディーだ。

 北信州の山間を流れる馬曲川(まぐせがわ)は上流まで険しい坂が続き、馬さえ体を曲げたことから名付けられたそうです。標高700メートル、修験道の山として知られた高社山が眼下に広がるその馬曲川上流で湯気を立てるのが秘湯「馬曲温泉」。泉質は弱アルカリ性、ナトリウム、硫酸イオン、炭酸水素が成分だけに筋肉痛、四十肩、五十肩、関節のこわばりなどに効果がある。不老長寿の秘湯といわれています。

 レッドファルクスの姿にこの秘境の温泉を思い浮かべました。三方を山に囲まれた露天風呂にでもこっそり漬かってきたかのようにみずみずしい馬体。肩の筋肉は相変わらず秘湯を縁取る岩のように発達しています。トモ(後肢)の張りも凄い。過去2年のスプリンターズSの馬体写真と比較してみました。芦毛の被毛は加齢とともに冬の馬曲温泉を覆う雪山のように白さを増していますが、馬体はどこにも衰えがない。

 すでに7歳秋。人間でいえば四十肩を訴える中年の域です。ましてや、消長の激しいスプリント界。ペースが緩まない短距離戦は長距離戦よりも体に与えるダメージが大きいものです。7歳になっても短距離の頂点に君臨する驚異の肉体。スキージャンプ男子のW杯最年長優勝(41歳219日)などレジェンドと呼ばれる記録を残してきた葛西紀明のような不老をかなえる秘けつとは…。葛西は自身の著書で「しなやかで柔らかいカラダ」と書いていますが、馬のアスリートも同じ。レッドファルクスの柔軟性に富んだ馬体が老いを防いでいるのです。

 父スウェプトオーヴァーボードの産駒には硬い馬が多いが、母の父サンデーサイレンス(SS)は柔軟さが特長。毛色は父と同じ芦毛でも、中身は母の父の柔らかさ。白いボードをはがせばSSが出てくる。レースの消耗を防ぎ、疲労の蓄積を少なくしているのは、しなやかな身のこなしです。四肢の腱はしっかり浮き立っている。筋肉が柔軟だからダメージをうまく逃して脚元に余分な負担が掛からないのです。

 前人(馬)未到のスプリンターズS3連覇の道。北信州の山間を流れる馬曲川のように険しい坂道ですが、上流まで駆け上がるのではないか。なにしろ、不老長寿の秘湯に漬かってきたような短距離界のレジェンドですから。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の74歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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