【根本調教師独占手記】菜七子に「持っている」直感、信頼置ける騎手目指せ

[ 2018年8月20日 08:30 ]

菜七子 JRA34勝、女性騎手最多並ぶ

2016年4月、JRA初勝利を挙げ師匠の根本調教師と握手を交わす藤田
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 菜七子の女性騎手最多タイとなるJRA通算34勝を祝して、師である根本康広調教師(62)がスポニチ本紙に独占手記を寄稿した。また、小学生時代から「将来は騎手になる」という夢を強く抱き続けてきた菜七子。茨城県守谷市立松ケ丘小学校、乗馬スクール、けやき台中学校の各時代の“青春の素顔”に迫った。

 菜七子、34勝おめでとう!!デビューからずっと注目されて騒がれて、それでもプレッシャーに押しつぶされず、気持ちが折れなかった。菜七子に初めて会った時に「この子は何か持っているな。節目節目で何かやってくれそう」と直感した。一方で、気の強い一面は全く見せなかった。競馬学校の厳しい訓練を耐え抜いてきたから、頑張り屋さんだとは思っていたけど、ジョッキーとして地に足がついてくると、気の強い性格が一気に出てきた。

 負けず嫌いはレース中に最も出る。馬群の中に入っても、先輩ジョッキーに遠慮することなく声を出して闘志をむき出しにするからね。私の時代は柴田政人さんがいたら、私はそのコースに行かない。でも、菜七子なら臆せず割って入る。相手が武豊でも福永(祐一)でも戸崎(圭太)でも内田(博幸)でも、菜七子は決して恐れない。男社会の厳しい世界で女性1人。気が強くなきゃ、やっていけない。レースで負けて引き揚げて来ると、可愛い顔がクシャクシャ。もの凄く悔しそうな表情を見せて、しゃべれなくなるほど。それだけ強い気持ちで戦い続けている。

 私は21年間の現役騎手生活で2633鞍(235勝)乗ったが、菜七子はもう1000回騎乗を超えている。私の10年での乗り鞍を3年足らずで乗ったことになる。昔から「10回の追い切りより1回の競馬」と言われるが、ここに来ての活躍は引き出しが多くなったことが大きい。経験を積んで頭より体で動けるようになった。地方にもたくさん遠征に行っているが、乗れるうちはたくさん行った方がいい。この前は大井競馬場でモレイラと一緒になったときに自分から話を聞いたみたいだし、ダービージョッキーの福永君にも質問をしたりしている。これからも調教師や馬主さんにかわいがってもらい、信頼が置ける騎手を目指してほしい。もちろん、感謝の心を忘れてはいけない。

 騎乗に余分な力はいらないと言っても、1馬力の馬を抑え込むにはやっぱり力が必要不可欠。筋肉の付き方はどうしても男性にかなわない。それでも、菜七子は徹底的に体幹を鍛えるなど、何をすべきかを考えて努力を続けてきた。その努力は誰かに言うことではないし、菜七子が周囲に明かすこともなかった。減量恩恵3キロの期間にはたくさん騎乗させてもらい経験を積んだ。今は2キロになったが、1キロの差はまだ技術でカバーできる。だが、私も経験したように2キロから1キロになると同じ乗り方をしても馬が伸びなくなる。ちょっとは小ずるい乗り方を教えてもいいけど、それだと菜七子ではなくなってしまう。これからも“菜七子らしい”堂々とした正攻法で騎乗してほしいと思う。

 私はいつも弟子たちに「自信を持て」と言っている。技術も大事だが最後は気持ち。まだまだこれからだが、菜七子には“自信”という言葉を贈りたい。(JRA調教師)

 ◆根本 康広(ねもと・やすひろ)1956年(昭31)1月31日生まれ、東京都出身の62歳。77年3月に騎手デビュー。85年天皇賞・秋(ギャロップダイナ)、87年ダービー(メリーナイス)など重賞14勝。障害でも活躍し79年にはバローネターフで中山大障害を春秋連覇。JRA通算2633戦235勝で、97年に引退し調教師に転身。98年に開業し通算4566戦168勝(19日現在)。丸山、野中、菜七子と3人の所属騎手を擁する。

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2018年8月20日のニュース