スターターの月原氏 癖馬の立派な“門出”が何よりの喜び

[ 2018年8月1日 05:30 ]

レースで発走の赤旗を振る月原隆司氏
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 【馬好き人好き 裏方さんの仕事】レースの行方を左右するスタート。その命運を握るのがスターター(発走委員)だ。レースのたびにターフビジョンや中継映像にアップで映る「旗を振る姿」は、競馬ファンなら誰もが目にしているはずだが、発走以外にも重要な役割を担う。スターター歴10年になる栗東トレセン公正室・上席発走役の月原隆司氏(51)に話を聞いた。

 JRAの発走担当者は13人。開催日は4人1組で発走業務を担当し、うち3人の発走委員が1人4競走のスタートを担当する。移動式の発走台(スタンドカー)に設置されたレバーを握るとゲートが開く仕組み。無線接続が当たり前の時代だが、誤作動を防ぐため有線接続にこだわっている。「まずはできるだけ発走時刻を守ること。その上で、全馬が円滑、安全に発走できるよう心掛けている。何度やっても緊張の瞬間です」と月原氏。全馬がおとなしくなった瞬間に切るのが理想だが馬は生き物。そう簡単にはいかない。「枠入りを嫌がる。駐立が悪い。出遅れる、他馬を怖がる。蹴り癖があるなど、いろんな馬がいます。出走各馬の情報を持ち寄り、開催日の朝のミーティングで気を付ける点を話し合います」。各馬の特徴は「発走ノート」にまとめられ共有。癖馬の動きを注視しながら、最良のタイミングを探る。

 開催のない平日は、所属する東西トレセンで発走調教審査(ゲート試験)に携わる。合否判定も託された、もう一つの重要な業務。「馬の悪癖を直すため、練習の段階で調教師や厩舎スタッフにアドバイスすることもあります。一頭ごとに性格も違うので、例えば厳しく叱るのか、優しくなだめるのか。普段から厩舎と密にコミュニケーションを取り、調教の仕方を一緒に考えていきます」。日々積み重ねた情報と経験を基に、開催日の発走業務に臨む。

 “馬の気持ち”をより理解する必要がある。スターターは獣医師と馬術経験者で占められている。月原氏も現職の前はトレセンで獣医師として勤務していた。「責任重大ですが、やりがいのある仕事です。それまでゲートが上手ではなかったり、練習で苦労した馬がスムーズに出ていく。その瞬間が凄くうれしいですね」。ただ、旗を振っているだけではない。握り締めるその手には、たくさんの思いが詰まっている。

 ≪ゲート周辺“人の動き”に注目≫発走業務に携わるのは発走委員だけではない。別表にまとめたように、レース前のゲートの周辺には常に20人以上が配置されている。馬の枠入れなど直接的に関わる人もいれば、落馬、落鉄などアクシデントに備えて待機する人も。普段、馬ばかりを見ているスタートだが、今度、競馬場に足を運んだ際は“人の動き”に注目してみるのも面白いかもしれない。

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2018年8月1日のニュース