大看板背負い36年…尾形充師 引退前に祖父に誓う800勝

[ 2018年2月8日 05:30 ]

馬房で穏やかな表情を見せる尾形充師
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 名馬と共に中央競馬をリードしてきた関東調教師5人が今月末で70歳定年を迎える。引退まで3週を残して、現役4人目の通算800勝にあと1と迫っているのが尾形充弘師。G1・4勝馬グラスワンダーを育てた名伯楽が「大尾形」の看板を背負った36年間の思いを語った。

 東京・府中市に眠る偉大なる祖父の墓碑に向かって静かに手を合わせる。調教師として最後となる東京開催の初日(3日)朝。尾形充師は前日の降雪が彩る白銀の霊園で故・尾形藤吉師に引退の報告をした。「藤吉にいい人生をつくってもらえた。偉大過ぎて、背負った十字架は重かったが、ようやく胸を張って線香を上げられるようなった」。36年に及んだ調教師生活を穏やかな表情で振り返った。

 祖父・尾形藤吉師は前人未到の大記録を打ち立てた日本競馬の草分け。通算1670勝、重賞189勝、日本ダービー8勝など旧八大競走39勝…。その孫として背負わされた「大尾形」の看板は調教師になった82年から十字架のような重しだった。「藤吉の孫なら、仕事ができて当たり前。祖父の名を汚さないように務めるのが使命だった」。尾形の名を継ぐ3代目の知られざる苦悩である。

 米国のセリでゴドルフィン相手に25万ドル(約2750万円)で競り落としたグラスワンダーの春秋グランプリ3連覇。当代随一の目利きといわれた藤吉師の後継としての面目躍如だった。「あんなに走るなんて思ってなかった。馬主に損させないのが調教師の心得。現実にはなかなかうまくいかなかったが…」と笑う。

 「馬を育てるには人を育てろ」。40人超の調教師、騎手を輩出した尾形藤吉師の教えだ。「私は沢昭典と柄崎将寿の2人しか育てられなかった」というが、日本調教師会の要職を歴任して競馬の環境を育てた。

 引退まで3週を残して、管理馬の勝利数は799。現役4人目となるJRA通算800勝に王手をかけている。「喉から手が出るほど勝ちたいけど、簡単に勝てないのが競馬。たとえ799で終わっても“おまえの人生は良かったんじゃないか”って草葉の陰で思ってもらえるはず」。偉大なる祖父の墓碑に向かって再び手を合わせた。

 ◆尾形 充弘(おがた・みつひろ)1947年(昭22)9月27日、大阪府生まれの70歳。コンピューター関連会社を退職した75年、祖父・尾形藤吉師の厩舎で調教助手。82年、調教師免許取得。JRA通算799勝(7日現在)、重賞23勝、G1はグラスワンダーで97年朝日杯3歳S、98、99年有馬記念、99年宝塚記念。10〜12年に日本調教師会会長も務めた。

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