【チャンピオンズC】ケンタッキー90点、傾奇立ち

[ 2017年11月28日 05:30 ]

巨大なキ甲が目立つアポロケンタッキー。21世紀の「松風」だ
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 戦国ダート決戦の覇権を握るのは自慢の怪力!?鈴木康弘元調教師がG1有力馬の馬体を診断する「達眼」。第18回チャンピオンズC(12月3日、中京)では混戦ぶりを象徴するように4頭横並びの最高点(90点)を付けた。中でも達眼を捉えたのは昨年の東京大賞典優勝アポロケンタッキー。伝説の怪力馬になぞらえながら可能性を探った。

 戦国時代に「松風」という名の怪力馬がいました。野生馬の群れを率いていた松風は猛将、前田慶次にその雄大な馬体を見初められ、戦場を共に駆け巡ります。前田慶次といえば、奇抜な振る舞いを好む傾奇者(かぶきもの)。一度の合戦で馬を乗りつぶしてしまうほどの巨漢でも知られていましたが、松風だけはこの猛将を背に3日3晩、悠然と駆けたそうです。戦場では敵将の甲冑(かっちゅう)も踏みつぶせるほどの馬力。江戸中期に発刊された軍談書「常山紀談(じょうざんきだん)」には「ふとくたくましき馬…鹿毛」と記されています。

 アポロケンタッキーはそんな希代の怪力馬を思い起こさせる鹿毛です。560キロ前後の馬格の中で最も際立つのが、サラブレッドとは思えない巨大なキ甲(首と背中の間の膨らみ)。馬はキ甲で重量を背負う。鎧(よろい)姿の前田慶次を乗せてもつぶれないでしょう。極端に太くて短い首、非常に発達した肩、大きな膝…。軽快さがない代わりに馬力にあふれています。冬場の乾燥したパサパサの砂も膝を曲げ、馬力任せにたぐれる前肢。ダート馬には前肢の発達した体形が多いとはいえ、極端なボリューム。重いソリを引くばんえい競馬の競走馬のようです。一方で、トモ(後肢)の筋肉は分厚く、トモのパワーを受ける飛節も特大。馬力とともに推進力も併せ持っています。

 昨年のチャンピオンズCに比べて立ち姿も良くなっています。頭をしっかり上げて、とてもメリハリのついた立ち方。顔を見れば、いかついほどに顎が張っている。大食漢なのでしょう。全身が鎧のようにたくましい筋肉に覆われています。「常山紀談」に記された通りの「ふとくたくましき馬…鹿毛」です。実力馬が群雄割拠の戦国ダート決戦。乾燥した砂が舞台なら怪力ぶりを発揮する、21世紀の松風かもしれません。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、美浦で開業。93〜03年に日本調教師会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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