【マイルCS】イスラ完熟100点!流麗な輪郭に厚みと丸み

[ 2017年11月14日 05:30 ]

唯一満点のイスラボニータ。浮かせた左後肢の蹄から気迫が読み取れる
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 鈴木康弘元調教師がG1有力馬の馬体を診断する「達眼」。第34回マイルチャンピオンシップ(19日、京都)では、14年皐月賞馬イスラボニータに唯一の満点を付けた。達眼が捉えたのは研ぎ澄まされた精神を凝縮するように浮かせた蹄。黒髪の貴公子は6歳の晩秋に完熟した。3年ぶりのタイトル奪還を予感させる魅惑のポートレートだ。

 上質な額縁に収めて飾りたくなるほど美しいイスラボニータ像。貴公子然とした品格高い漆黒の馬体を何度となく名画になぞらえながら、その美の正体とは機能美と造形美だろうと言及してきました。キュービスム(立体派)の大家、レジェ作品のように全ての部位が一寸の無駄もなくリンクした構造。イタリア・ルネサンスの巨匠、ボッティチェリの線描のように流麗な輪郭。そんな流れるようなボディーラインに変化が生じたのは前回G1安田記念でした。首差しと腹周りに厚みが増し、輪郭にふんわりとした丸みが加わった。競走馬としての「円熟」を雄弁に伝える変化でした。だが、円熟の先に待っていたのは…。

 今回の立ち姿には驚かされました。左後肢の蹄を凝視してみてください。後ろの部分が地面から離れています。体重を少しだけ前に乗せたため後肢の蹄が浮いているのです。人間でいえば、かかとを浮かした体勢。G1全9戦の立ち姿を漏れなく見てきましたが、蹄を浮かしたのは初めてです。ハミを柔らかく取る普段通りの穏やかなたたずまいの中に、唯一気持ちを込めた蹄の所作。体を力ませることもなく、1点だけに気迫を示しているのです。円熟した体に備わる研ぎ澄まされた精神。その姿から読み取れるのは競走馬としての「完熟」です。

 消耗しやすい不良馬場の富士Sを58キロの負担重量で走り抜いた直後の一戦。この美しい黒鹿毛からは消耗の痕跡さえ見つかりません。全ての部位が無駄なくリンクした機能美に富んだ馬体はダメージを受けづらいもの。手入れの行き届いた漆黒のタテガミは造形美をいっそう際立たせます。6歳の晩秋を迎えた黒髪の貴公子。完熟の像を飾るにはG1優勝馬の額縁が最もふさわしいでしょう。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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