【天皇賞】ブラック記録ずくめV 極悪馬場まさかの出遅れから完全復活

[ 2017年10月30日 05:30 ]

サトノクラウンに競り勝ったキタサンブラック・武豊は右手を上げてガッツポーズ
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 これが現役最強馬の走りだ。秋の古馬3冠初戦「第156回天皇賞・秋」が29日、不良馬場の東京競馬場で行われ、1番人気で歌手の北島三郎(81)が所有するキタサンブラックがV。JRAのG1・6勝目で、史上5頭目の天皇賞同一年春秋連覇を達成した。鞍上の武豊(48)は、前人未到の天皇賞14勝目(秋6勝)となった。

 雨中の激闘は大きなため息から始まった。1番人気キタサンブラックは、まさかの出遅れ。後方に置かれる姿に、府中のマンモススタンドが揺れた。清水久師が「ゲート内で悪さしているのは分かったので、瞬間、アッと思った」と振り返れば、北島三郎オーナーも「馬を見失ってしまった」と苦笑い。「大丈夫か」。どよめく大観衆の声をよそに、鞍上の武豊だけは冷静だった。

 空いたインを利用してポジションを押し上げると、直線入り口で先頭へ。悲鳴はやがて大歓声へと変わった。残り200メートルから、サトノクラウンが襲いかかる。台風接近で激しさを増す雨を、たっぷり含んだタフな芝。名うての道悪巧者であるはずのクラウンが、苦しそうに力を振り絞る姿とは対照的に、ブラックは「来るなら来い」と言わんばかりに、真っすぐ突き進んだ。

 勝ちタイムはレース史上最も遅い2分8秒3。2着と首差のゴールは見た目以上の完勝だった。「馬場はこなせると思っていた。スタートは悪かったが焦りはなかった。リズム良く走れば位置は関係ない馬。そういう競馬ができた」。14度目となる盾制覇を、名手は涼しい顔で振り返った。北島オーナーは「今日は豊君の腕達者ぶりに尽きる。感動もうれしさもあるが、それが一番。プロ中のプロですね」と称えた。

 G1・3連勝を狙った春の宝塚記念で、よもやの9着惨敗。「特に脚元を痛めたわけでもないし、レース後の回復も早かった」と清水久師。凱旋門賞挑戦こそ断念したが、すぐに気持ちを切り替えた。「秋は本当の強さを見せよう。それだけを考えてやってきた」。攻めに攻めた春とは違い、この秋は硬軟織り交ぜながらの調整。鍛え切った馬体に、気持ちを乗せることを優先した。「パドックでまたがったら、歩き方に活気が満ちていた。これならと思った」とは武豊。人馬の信頼の絆で完全復活を遂げた。

 引退まで残り2戦。師は「宝塚でがっかりさせた分は、少しは挽回できたと思う。まずはジャパンC連覇を目指したい」と力を込めた。本当に強い馬は条件を選ばない。3200メートルの天皇賞・春をスーパーレコードで駆け抜け、2000メートルの秋を最も遅いタイムでねじ伏せたブラック。新記録となるJRA・G1「8勝」も、この馬なら…。そう感じさせる強さだった。

 ◆キタサンブラック 父ブラックタイド 母シュガーハート(母の父サクラバクシンオー)牡5歳 栗東・清水久厩舎所属 馬主・大野商事 生産者・北海道日高町ヤナガワ牧場 戦績18戦11勝 総獲得賞金14億9796万1000円。

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