【天皇賞・秋】ソウルスターリング100点!名画思わす造形美

[ 2017年10月24日 05:30 ]

100点満点!ソウルスターリングの立ち姿は、まるで名画を思わせる造形美
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 3歳牝馬初の盾獲りなるか。鈴木康弘元調教師がG1有力馬の馬体を診断する「達眼」。第156回天皇賞・秋(29日、東京)ではソウルスターリング、ネオリアリズムに満点を付けた。中でも達眼が捉えたのは今春のオークス馬ソウルスターリングの“完美”な姿。秋初戦・毎日王冠(8着)を振り返りながら巻き返しの可能性を探った。達眼の秋G1は、初戦スプリンターズSでは上位指名2頭がワンツー、続く秋華賞と菊花賞では最高得点馬が勝利とさえ渡っている。

 画家は作品を完成させると、その片隅に自らのサインを入れるものです。でも、「ゲルニカ」などの名画で知られる巨匠ピカソにはサインを記さない時期があったそうです。作者のネームバリューで鑑賞するのではなく、作品そのものを見てもらいたかったからだと言われています。

 ソウルスターリング。その姿は今春と変わらず、息をのむほど美しい。名画を思わせる造形美。全ての部位がしなやかに無駄なくリンクし、完璧なバランスを整えている。柔らかい筋肉をつけた深いトモ(後肢)、そのパワーを受ける飛節は頑強で絶妙な角度。流麗に抜けた首差し、滑らかに傾斜した肩、盛り上がったキ甲(首と背の間の膨らみ)。前肢蹄の大きさと角度が左右で異なる点も含めて全て春と同じ。オークス時に「完美」と絶賛した姿そのままです。絵画になぞらえれば、作者のサインが入った完成された造形。春の時点で寸分の過不足もない仕上げが施されたため、数カ月経たところで描き加えようがないのです。

 毎日王冠は「完美」な馬体でなぜ崩れたのか。気持ちの問題だと思いますが、立ち姿からその精神状態をうかがうことはできません。馬のメンタルは耳や尾の立て方、四肢の立ち方などに表れるものです。ところが、ソウルスターリングはいつも同じ立ち姿を見せる。スタッフを信頼して、きちんと立つようにしつけが行き届いているからです。スタッフに向けてしっかり立てた耳、適度な緊張感をもったハミのくわえ方、自然に垂らした尾。過去のG1・3戦と全て同じしぐさです。だから、立ち姿では気持ちの変化が読み取れない。

 毎日王冠の映像を見れば、春とは違った精神状態だったことが分かります。ゲート前の輪乗りでいつになくイレ込んだ。ハミ取りのいい気性なのに、フワフワと先頭を行く走り。夏の放牧中にリラックスし過ぎたのか。だとすれば、秋初戦を使われたことで変わる可能性はあります。あるいは夏の間、走りたい気持ちを十分に発散できず、ストレスになったのか。だとすれば、秋初戦がガス抜きになるかもしれません。

 G1のたびに寸分の過不足もなく仕上げられた馬体。完璧なしつけを体現した立ち姿。その写真にFUJISAWAのサインはなくても、造形を見れば手掛けた調教師の力量が分かります。巨匠ピカソの絵がサインなしでも傑作と評価されたように。あとは、「完美」なサラブレッドの気持ちを天皇賞当日までに立て直せるか。中2週のわずかな期間でも、馬づくりの巨匠と呼ばれる調教師なら…。

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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