【夏競馬トリビア〜ン】“愛のレシピ”で支える馬の栄養士さん

[ 2017年8月29日 05:30 ]

現在9厩舎と契約している河田安弘さん(左)
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 人間と同じくサラブレッドも“食”が大切。厳しい調教に耐え抜きレースに出走する競走馬は、いわばアスリート。彼らの“食生活”を陰で支えるのが飼料アドバイザーの河田安弘さん(43)。現在、美浦と栗東合計9厩舎と契約を結び、カイバについて多角的なサポートを行っている。東西忙しく走り回る“馬の栄養士”の仕事を追った。

 厩舎スタッフと同じく、河田さんの朝も早い。午前5時半、美浦の奥村武厩舎。運動を終えて引き揚げる馬たちにジッと視線の先を集中させ、担当者と一言二言、言葉を交わす。

 「実際に馬と接し騎乗している担当者の意見や感触を尊重しています。体が重いからカイバの量をどう調整しようとか、こういうサプリを使いましょうとか、相談していきます」

 カイバとはエン麦、配合飼料、サプリメントを混ぜ合わせた競走馬の主食。厩舎や担当者によって配合や与え方は十人十色。河田さんと16年から契約を結ぶ美浦の奥村武師(41)は、かつて国枝厩舎の助手時代に厩舎の管理馬全頭のカイバを一括して担当する「フィードマン」を兼任。その経験から、飼料管理の重要性を痛感しており、厩舎でもフィードマンを2人置いている。

 「カイバは担当者の経験や感覚に頼るところが多く、“企業秘密”のようなもの。僕自身、フィードマンは情報量が少なく、非常に孤独な立場だった。だから、心の“よりどころ”として河田さんとコミュニケーションを取ってくれれば」

 河田さんも多くの厩舎、競走馬で得た豊富なデータや知識を惜しみなく厩舎スタッフに還元。より良い“食環境”を共につくり出している。

 具体的にどのようなアドバイスを行っているのだろうか?例えば夏場。「夏バテして食欲が落ちるのは馬も同じ。食欲を促す工夫も人間と共通するところはたくさんあります」と河田さん。まずは、水と電解質をたくさん摂取させること。電解質とはいわゆるスポーツドリンク。「失われた水分をしっかり補給するのが基本です」。粉状のイオンサプリをカイバに混ぜて、積極的に摂取させている。

 水を飲ませるのもコツがある。「夏場は冷たい水だとよく飲む馬が多いですね。逆に冬は温めると、これもよく飲む。これも人間と同じです」。そして、水を飲ませることはカイバ食いの良さにもつながる。これは人間の白米には味噌汁、という“究極の組み合わせ”とどこか通じる。

 河田さんが最近取り入れて効果を感じているのは、ニンニク、蜂蜜、グルコース(糖質)が入ったサプリ。「夏負けしている馬に使ったら、反応が良かったんです。牡馬は馬っ気を出しますね(笑い)」。専門的な知識、データだけにとどまらず“おばあちゃんの知恵袋”のようなひと工夫まで。“馬の栄養士さん”活躍の場は、ますます広がっていきそうだ。

 ≪“気持ち”も操作≫奥村武厩舎でフィードマンを務める若松敦厩務員(38)は「以前は馬体重が減ると“どうしよう”と悩んでしまっていたが、今は減るなりの理由を見つけて対処できる」と胸を張る。河田さんのアドバイスもあってカイバのバリエーションも増え、「調教の段階に合わせて配合を調整すると、馬のテンションも変わってきますよ」と説明。食で“気持ち”のコントロールをすることも可能だ。

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