【G1温故知新】1996年安田記念優勝 トロットサンダー

[ 2017年5月31日 06:30 ]

96年の安田記念を制覇し、歓喜のトロットサンダーと横山典弘、矢作忠永厩務員(手前)
Photo By スポニチ

 G1の過去の勝ち馬や惜しくも力及ばなかった馬、記録以上に記憶に残る馬たちを回顧し、今年のレースの注目馬や見どころを探る「G1温故知新」。第22回は1996年の安田記念を制覇するなど、マイル戦では生涯8戦8勝(うち中央6勝)と無類の強さを誇ったトロットサンダー。

 馬場状態や距離条件、各競馬場の巧拙など“競走馬の分業化”が進む昨今、いわゆるスペシャリストが誕生しやすくなっていると言える。だが、トロットサンダーほどのスペシャリストにはなかなかお目にかかれない。

 1989年生まれのトロットサンダーは、皐月賞馬ダイナコスモスの種牡馬2年目の産駒に当たる。92年7月に公営浦和競馬でデビュー。ケガがちで順調さを欠いたものの、天性のスピードの違いで押し切る競馬を武器に、当地では9戦8勝2着1回とほぼパーフェクトの数字を残した。とは言え浦和での戦績の大半は下級条件戦で挙げたもので、同じく公営出身のハイセイコーやオグリキャップのような華やかさとは無縁の存在であった。94年夏に中央入りすると、不慣れな芝をものともせず900万下条件を2戦で卒業。翌95年の正月には準オープン戦を勝ち上がったが、この時すでに彼は6歳を迎えていた。

 中央4戦目にして重賞初挑戦となったG2中山記念(芝1800メートル)で、トロットサンダーは7着に敗れてしまう。さらに1戦挟んで同年夏に出走した札幌記念(芝2000メートル)と函館記念(同)も7着惨敗。「オープンでは実力不足」という見方もあったが、中距離適性がなかっただけなのだろう。秋にはマイルのアイルランドTを中央デビュー戦以来の相棒である横山典弘の手綱で完勝。その勢いでG1のマイルCSに挑戦し、後方待機から末脚を爆発させ快勝。見事マイル戦線の頂点に立った。

 翌96年、7歳となったトロットサンダーだが、衰えは見せなかった。所属していた美浦・相川勝敏厩舎の矢作忠永厩務員は腕利きとして知られ、献身的に彼を支えた。当時、相川厩舎にはトロットサンダーと併せ調教ができるだけの馬がおらず、松山康久厩舎から皐月賞馬ジェニュインを借りてきたのも矢作厩務員だったという。同氏の期待に応えるかのように、トロットサンダーの強さは円熟味を増していく。マイルの東京新聞杯を制し、1F短い京王杯SCでは4コーナーで前が壁になるアクシデントに見舞われながらも、強豪相手に3着。6月9日のG1安田記念を堂々の1番人気で迎えた。

 巨体のヒシアケボノが先手を奪い、他の16頭を先導。緩みなくレースは進んだ。トロットサンダーはいつものように後方待機。そしてコーナーで大外を回る。直線に入っても逃げ馬の脚色は鈍らなかったが、岡部幸雄騎乗のタイキブリザードが追撃開始。そこに外から襲い掛かるトロットサンダー。岡部と横山典が併走状態でヒシアケボノをかわし、最後は2頭が鼻面を並べてゴール!わずか14センチ差でトロットサンダーが勝利をもぎ取った。

 まもなく不運に見舞われたトロットサンダーは、結局マイル戦無敗のまま競馬場を去ったが、今年の安田記念にはマイル戦5戦無敗の馬が出走する。新星グレーターロンドンだ。前走・東風Sの後方一気はまさに圧巻であった。重賞初挑戦だけに大舞台のペースに戸惑う可能性もあり、どこまで通用するかは未知数。だが前年の覇者ロゴタイプや、完全に復調した皐月賞馬イスラボニータに素質では決して見劣りしない。かつてのトロットサンダーの走りをほうふつさせる末脚自慢のスペシャリストが、香港2騎を交えた春のマイル王に輝く…そう夢想させるだけのポテンシャルをグレーターロンドンは確かに秘めている。

(文中の馬齢表記は新表記で統一)

続きを表示

この記事のフォト

2017年5月31日のニュース