【皐月賞】カデナ95点“バランスNO.1”これぞ名馬の理想像

[ 2017年4月12日 05:30 ]

理想のバランスを保つカデナの馬体
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 混戦クラシックはボディー3強に注目だ。鈴木康弘元調教師がG1出走馬の馬体を診断する「達眼」。第77回皐月賞(16日、中山)では重賞2連勝中のカデナ、休養明けのレイデオロ、牡馬に挑むファンディーナを95点でトップ評価した。中でも達眼が捉えたのはディープインパクト産駒らしいカデナの柔らかい筋肉。ボディー3強は12日に追い切られる。

 沖縄の嘉手納には「野国青毛」という名馬伝説が残されているそうです。沖縄県が琉球国だった17世紀、嘉手納の北部、野国という馬産地に火災が起こりました。多くの馬が焼け死んでしまいますが、生後間もない青毛馬が牧草をはむ厩舎にだけは火の手が回らず、奇跡的に生き残ります。長じて野国青毛と名付けられた馬は、柔らかい体としなやかな走り、飼い主に従順な気性で国中に名声をとどろかせました。好事魔多し。飼い主をねたんだ者が馬場に落とし穴を掘り、その上を走らせましたが、琉球屈指の名馬は鳥のように跳躍して死のわなを跳び越えたといいます。琉球王朝の絵師・自了が青毛の美しい姿を後生に伝えているとか。

 そんな名馬伝説が残る嘉手納と同じ名のサラブレッドも世代屈指の姿です。首から肩、キ甲(首と背の間の突起部分)、背中にかけて素晴らしいバランスを保っている。絶妙な幅と奥行きのある首差し、筋肉量、角度とも申し分ない肩、キ甲が少し後ろに付いているため背中が短く映ります。それでいて、腹下にはゆとりがある。長腹短背。被毛の色こそ野国青毛と違って鹿毛ですが、名馬の理想像とされる体形です。

 惜しまれるのはトモ(後肢)。もう少し筋肉量を増やしてたくましさを見せてほしい。またがれば、たぶん緩い印象を受けるでしょう。だが、物足りない筋肉の量を補っているのが筋肉の質です。柔らかくて弾力性に満ちている。馬力よりもしなやかさでターフの上を弾むトモ。フレンチデピュティ(母の父)の硬さ、ごっつさはどこにもない。父ディープインパクトの特長がよく表れています。

 立ち姿にはライバルとの決定的な違いがあります。口の周りの馬具を見てください。ハミの代わりに、モグシ(ハミより制御力が弱い簡易頭絡)を着けています。古馬でもモグシだけで写真を撮らせるケースはほとんどありません。それだけ人に従順。悪さをしたり、暴れたりしないとスタッフが確信しているからです。そんな穏やかな気性は尾離れにも表れている。尾をごく自然に垂らして、とてもリラックスしています。

 野国青毛ならぬ、野国鹿毛とでも呼びたくなる体つきと立ち姿。現代によみがえった嘉手納の名馬像です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの72歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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