【大阪杯】キタサンブラック100点!やる気満々で中距離OK

[ 2017年3月29日 05:30 ]

これまでにない仕上がりで、やる気に満ちた立ち姿のキタサンブラック
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 新設G1は2強対決だ!鈴木康弘元調教師がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第61回大阪杯(4月2日、阪神)ではキタサンブラックをサトノクラウンと共に満点評価した。達眼が捉えたのは写真の中から飛び出してくるようなブラックの立ち姿。長距離体形でも中距離に対応できる気合乗りだ。

 「この世でいちばんすばらしい馬」というタイトルの絵本があります。8世紀、中国の伝説的な画家ハン・ガンをモチーフにした感涙の物語。ハン・ガンの描く馬には生命が宿り、絵から飛び出して動きだす。そんな噂を聞きつけた武将が画家を訪ね、戦に勝つため勇敢で強い馬を描くように頼みます。完成した絵は絹地のキャンバスから勢いよく飛び出すと、武将を乗せて疾走しました。「どうか、馬を大切にしてください」。画家の声をかき消すけたたましい蹄音を残して、馬は戦場へ向かいます。

 キタサンブラックの写真を見たとき、ハン・ガンの絵がふと脳裏に浮かびました。今にも走りだして、写真の中から飛び出してきそうな立ち姿。耳を左右に開きながら、重心を前に傾けています。気合が十分に乗っている。昨年もそんな格好をしていたのか。有馬記念、ジャパンCの写真を見直してみました。どちらも四肢に均等に比重をかけ、耳を前方へ向けながら静かにたたずんでいます。今にもごろんと横になって、昼寝でもしかねない姿でした。

 おっとりした立ち姿から一転、やる気に満ちた立ち姿へ。この心境の変化は中間の過ごし方が影響しているのでしょう。有馬記念から3カ月、体を緩めずに乗り込んできたそうです。ぜい肉がそぎ落とされ、トモ(後肢)と肩の筋肉量が少し増えた体つきから中間の豊富な稽古量がうかがえます。これまでになく仕上げたことで気持ちがぐっと前に向き、今にも走りだしそうな前傾姿勢を取っているのでしょう。

 何度も書いたように脚が極端に長く、頭の位置が高過ぎる体形。こういうキリン形の馬は脚を畳むのに時間がかかるため小脚を使えません。瞬間的に加速できず、平均ペースでバテずにじわじわ伸びてくるステイヤータイプです。2000メートルは短い。それでも、写真の中から飛び出してきそうなほど気合の乗った姿に中距離の可能性を感じるのです。

 画家ハン・ガンが描いた馬は戦場で無敵の強さを誇りますが、やがて…。結末は厚手のハンカチを用意してご一読ください。「この世でいちばんすばらしい馬」。キタサンブラックもこの中距離G1戦で一番素晴らしい馬になるかもしれません。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘 1944年(昭19)4月19日、東京生まれの72歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなどで27勝。

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