【マイルCS】イスラボニータ100点!印象派の傑作「風の名馬」

[ 2016年11月16日 05:30 ]

鈴木氏が絶賛するイスラボニータの馬体

 風のマイル王が混戦に断を下す!!鈴木康弘元調教師(72)がG1候補の馬体を診断する「達眼」。第33回マイルCS(20日、京都)ではイスラボニータ、サトノアラジン、ミッキーアイルの3頭を満点評価した。中でも達眼を魅了したのは強風にも動じないイスラボニータの立ち姿。14年皐月賞以来のG1タイトルを引き寄せる強じんな精神力に注目した。

 秋から冬へ変わる季節に初めて吹く風速8メートル以上の北風を「木枯らし1号」と呼びます。気象庁が東京に木枯らし1号が吹いたと発表した9日、茨城県の美浦にも冷たい強風が吹き荒れました。馬にとっては聴覚を狂わす強風。物がどこから飛んでくるかも分からないので落ち着きを失いがちです。タイミングの悪いことにマイルCSの馬体撮影が行われたのがこの日でした。案の定、有力馬の大半が不安そうな立ち姿です。

 たとえば、マジックタイムの写真を見てください。これまでの落ち着いた立ち姿から一転、後肢を地面にまともに着けず、浮足立っています。ネオリアリズムは耳や鼻先を極端にとがらせ、ハミをきつくかみ締めながら警戒心をあらわにしています。木枯らし1号のせいでしょう。

 ところが、イスラボニータは印象派の名画を思わせるような凜(りん)としたたたずまいです。強風に尾をなびかせながら、四肢は大地を力強く踏みしめています。耳を前に立て、目も前方の一点に向けています。ハミもいつも通りにくわえている。最高峰の舞台でしのぎを削ってきた古馬にふさわしい精神力です。

 体調もよほどいいのでしょう。冬毛が出始める季節なのに、黒鹿毛は漆黒の光沢を放ち、額から鼻先へ伸びる大流星の白色と鮮やかなコントラストを描いています。しなやかで流れるように美しい輪郭も崩れていません。トモ(後肢)と肩がバランス良く調和し、過不足ない骨量を飛節、球節、つなぎが絶妙な角度で支えています。

 昨年のマイルCS時には「印象派の巨匠エドガー・ドガの鋭い線描と鮮やかな色彩にあふれた名画のようだ」と寸評しました。安田記念では「HBの鉛筆を用いたドガの鋭い線描が2Bの鉛筆を使ったように濃くなった」と若干の修正を加えました。薄手だった首差しにボリュームが出て、重厚感を伴った造形美に変化したからです。5歳になっての進化。顎が張っていないため食が細く、成長に時間が必要だったのでしょう。今回、首差しはさらに厚くなっています。ドガが2Bから3Bの鉛筆に持ち替えてデッサンしたような…。

 尾を巻き上げる、木枯らし1号にも動じない心と進化した体。3歳秋のセントライト記念以降は勝ち星から見放されていますが、その絵画のような姿に題名を付けるとすれば…。「風の名馬イスラボニータ」(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの72歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93~03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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