【G1温故知新】2010年エリザベス女王杯12着 シングライクバード

[ 2016年11月9日 06:00 ]

1988年のオークス、早めに抜け出すも苦しくなり最内へ切れ込んでいくフリートーク(右端)

 G1の過去の勝ち馬や惜しくも力及ばなかった馬、記録以上に記憶に残る馬たちを回顧し、今年のレースの注目馬や見どころを探る「G1温故知新」。第5回は2010年にエリザベス女王杯に出走して12着に終わったシングライクバードを中心にフリートーク一族を振り返る。

 “外寇”スノーフェアリーがひたすら強かった2010年のエリザベス女王杯。このレースに17頭立て16番人気で出走し、1着馬から1・8秒離された12着に敗れた馬がいる。すでに翌春の繁殖入りが決まっていたこの牝馬は、最初で最後のG1で無欲の追い込みに懸けたものの、力及ばなかった。彼女の名をシングライクバードという。

 2005年生まれの彼女は早くから素質を評価されていた馬だった。期待通りに早々と2勝を挙げ、3歳牝馬重賞戦線に身を投じたが、大目標であるオークスの出走権を逃してしまう。その後も大きく回り道し、ようやくオープン入りを果たしたのは10年の夏のことだった。時に5歳。約2年半ぶりに出走した重賞(府中牝馬S)は末脚不発で惨敗。続いて挑戦したG1エリザベス女王杯も冒頭で述べた通りの結果に終わった。

 彼女の“祖母”は1985年生まれのフリートーク。現役時にフラワーCとクイーンSを制した重賞2勝馬で、春の2冠でも3着&4着と力を発揮し、秋の大一番エリザベス女王杯(当時は3歳牝馬限定戦)でも本命の1頭に挙げられるほどの素質を秘めた馬だった。しかし、前哨戦のクイーンSを制してから間もなく故障が判明。G1タイトルに届かないままターフを去った。

 フリートークが生涯で産んだ子は3頭いるが、デビューが叶ったのは、シングライクバードの母となるシングライクトークだけだった。怪我がちで出世は遅れたものの、1997年のマーメイドSで女傑エアグルーヴの2着に健闘するなど随所で素質を垣間見せた。その母系の血を継承したシングライクバードはエ女王杯後、1走だけして予定通り繁殖入りしたが、繁殖牝馬としての期待は実績以上のものがあった。姉妹の中で最も才気溢れていた半姉のセイレーンズソングが子宝に恵まれず乗馬に転用されたため、貴重な牝系を繋げる役目を担う存在となったからだ。

 今年のエ女王杯には、そのシングライクバードの初子である4歳馬シングウィズジョイが登録している。母に似ず前で勝負するタイプで、昨年のフローラSで重賞勝ち。残念ながら本番のオークスでは大敗を喫し、以降順調さを欠いていたものの、暮れのターコイズSを快勝。3連単の配当が約295万円という大波乱の立役者となった。

 7カ月の休養明けを叩いた先日の府中牝馬Sでは、直線失速し7着と不覚を取った。とは言え叩き台としては及第点を与えられる内容。そして今回のエ女王杯では鞍上に屈指の名手ルメールを迎える予定だ。フリートークが故障の悲運に泣き、母シングライクバードは馬群でもがいた大舞台。一族の宿願であるG1タイトル獲得の野望を抱き、シングウィズジョイがその舞台に臨む。

(文中の馬齢表記は新表記で統一)

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