【G1温故知新】1999年秋華賞2着 クロックワーク

[ 2016年10月12日 06:00 ]

1999年の秋華賞、先に抜け出したヒシピナクル(15)を外から強襲するブゼンキャンドル(16)とクロックワーク(12)
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 G1の過去の勝ち馬や惜しくも力及ばなかった馬、記録以上に記憶に残る馬たちを回顧し、今年のレースの注目馬や見どころを探る「G1温故知新」。第2回は1999年の秋華賞で2着に突っ込み大波乱を演出するも、結局最後まで重賞を勝てなかったクロックワーク。

 1999年の秋華賞馬は「ダービーを金で買おうとした男」と評された富豪・上田清次郎氏の遺志を継ぐ関西馬ブゼンキャンドル。そして準優勝馬が青森上北生まれのクロックワークだった。

 モガミ産駒のブゼンキャンドルもそうだが、ゲイメセンにリアルシャダイという血統の組み合わせは当時にしても古臭く、時代に逆行していた。

 美浦の奥平厩舎に入った当時のクロックワークは「厩舎で一番走らない馬」扱い。ところがなかなか走る。デビューは3歳3月と遅れたものの、ダートで初陣を飾ると、芝の山桜賞では後のオープン級をまとめて下して連勝。続くオークスTRでも3着に食い込み、早くもG1出走権を手にした。しかし、本番では気性的な若さを見せ末脚不発。優勝馬ウメノファイバーから0・9秒差の9着に敗れ、奥平師13年ぶりのオークス制覇の夢は潰えた。

 この時点で900万下条件馬のため、賞金追加を図る彼女は夏も戦ったのだが…G3・ラジオたんぱ賞で3着、古馬混合の自己条件戦で3着、そして当時は“東の秋華賞TR”だったクイーンSでも3着と惜敗続き。鞍上の横山典弘も「決め手がない」とさじを投げた。本番への出走権こそ獲得したが、勝負どうこうの次元ではなかった。

 そして迎えた秋華賞。トゥザヴィクトリーやフサイチエアデールといったSSの愛娘、はたまたマル外の良血ヒシピナクル…これら絢爛な西の主役候補たちに挑むクロックワークにファンが下した評価は42・9倍の単勝10番人気だった。

 先行勢が作り出した前半5F58秒4のハイペースの中、前で勝負したトゥザヴィクトリーはガス欠を起こして早々と脱落。一方のヒシピナクルも早仕掛けとなり末が鈍ったところで、外から突っ込んできたのがローズS3着ながら12番人気のブゼンキャンドル、さらに大外からクロックワーク!いずれも後方待機の無欲の大駆けだ。大混乱の中、クロックワークはあわやの末脚を見せたが、わずかに首差届かず銀メダル。馬連は9万馬券也。

 大穴をあけ脚光を浴びたこのコンビも、秋華賞以降は揃って不遇であった。片や優勝馬は平地で2桁着順を続け、G1勝ち牝馬としては異例の障害入り。結局は“一発屋”として現役生活を終えた。2着馬はより物悲しい。秋華賞の後3戦したものの結果が出ず、やがて屈腱炎を発症。長期休養に入り、2001年の夏に急性心不全で死んでしまった。豪脚は一代限りのものとなった。

 時は2016年。かつてのサンデーサイレンスの立場に出来た息子(ディープインパクト)が取って代わった。17年前の激闘から学ぶものがあるとするならば…“大舞台で生きる本格派血統の底力”といったところか。

 本格派ながら型落ち感があったモガミとリアルシャダイを、あえて今の種牡馬に例えるならばメイショウサムソンか。今年の牝馬戦線には彼の有力産駒が参戦している。馬名の通り、時として電光石火の末脚を繰り出す西のデンコウアンジュ。一方、常にそこそこの脚を使うも届かない東のフロンテアクイーンの2頭だ。前者はローズSで4着、後者は紫苑Sで3着にそれぞれ敗れた。この構図をどこかで…そう、99年の秋華賞の1着馬と2着馬に似ているのだ。

 ちなみに東のTRを使って秋華賞を制した関東馬は存在せず、クロックワークの2着が未だ最高着順である。同じ関東馬のビッシュともどもフロンテアクイーンは秋華賞の歴史に挑むというわけだ。惜敗続きで重賞勝ちすらなかった“クロックワークの壁”は意外と高い。

(文中の馬齢表記は新表記で統一)

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