【浜名湖・ダービー】森永頂点へ ファン、家族、同じ病気の人のため

[ 2015年10月20日 05:30 ]

佐賀支部の(左から)三井所、深川、森永、峰は手で「SAGA」をつくりダービーへ意気込む

 現存する最古のSG「第62回ボートレースダービー」は20日、静岡のボートレース浜名湖で開幕する。昨年、現役最多の20連勝を達成した森永淳(34=佐賀)は、脳脊髄液減少症に7年以上も苦しめられながらダービー初参戦。家族とファンを心の支えに引退危機を乗り越え、最高峰の舞台にたどり着いた。同じ病気で悩む人のためにも、水面を力強く疾走する姿を見せる構えだ。

 森永を突如、激しい頭痛が襲ったのは08年6月。平和島一般戦に参戦中のことだった。耐えられないほどの痛み、目まい。レース出場を諦めて途中帰郷した。すぐに検査入院したが、原因は分からず。その後も帰郷と通院の繰り返し。しかし、いくら病院を替えても原因は判明せず。いたずらに時間だけが過ぎていった。

 「どんなに検査しても原因が分からない。レーサーを続けていくのは無理かもしれないと思った。やる気がないのかと疑われた時もあって本当につらかった。僕はボートレースが嫌いなのかも…。そう自分でも思うようになっていった」

 12年には8年間守り続けたA1級から陥落。成績不振、周囲の疑念。最後は自分自身すら信じられなくなった。次第に「引退」の二文字が頭の中に浮かぶようになった。

 延々と続く苦痛と苦悩の日々。そんな森永に現役続行を決意させたのはファンと家族の声だ。「SNSを通して“もっと僕の走りを見たい”と励まされて、もう一回頑張ってみようと思えた。それに子供たちのメッセージも大きかった」。それは約3年前、やっと文字が書けるようになった長女・明日美ちゃん(9)と長男・翔くん(7)から贈られた感謝状だ。「パパは今まで私たちのためにお仕事頑張ってくれました。ありがとう。これからも頑張ってください」。これで意志が固まった。森永は水面に戻ることを心に誓った。

 謎の頭痛と闘い続けること5年。ついに一条の光が差し込む。13年の夏、カウンセリングを担当した麻酔科医の指摘により病名が判明した。脳脊髄液減少症。医師の間でもあまり知られていない疾患だ。ようやく治療がスタート。だが、またも多くの困難が立ちはだかった。治療に伴う激痛、車いす生活、全額自己負担の治療費、リハビリ…。だが、不屈の男は踏ん張り抜いた。14年4月に再発。さらに治療を受け、戦いの場へと舞い戻った。

 文字通り必死の努力に勝利の女神もほほ笑んだ。14年8月2日に白星を挙げた森永の勢いは加速。2節連続で完全Vを飾ると、26日に現役最多(史上5位)となる20連勝を達成。艇史にその名を刻んだ。「それまで7連勝が最高だった僕には神様がいなければできない記録。何か目に見えない力が働いていたとしか思えない」。3度目の治療を乗り越え、優勝を重ねた。今年3月の尼崎クラシックでSG戦線にも返り咲いた。

 今回は7カ月ぶりのSG参戦。もちろん、ここに懸けている。「病気になってから、よりモチベーションが上がった。僕が走ることで、この病気を世間にもっと知ってもらいたい。そうすれば、同じ境遇の人たちも少しは楽になると思う。僕自身、クラシックの時より体調が良いので楽しみ」。注目度の高いレースでの活躍は何よりもアピールのチャンス。苦しみを共有する同志たちへ。森永の挑戦がここから本格的に始まる。

 ≪脳脊髄液減少症≫脊髄を覆う硬膜が破れ、脳脊髄液が漏れてしまう疾患。交通事故やスポーツ外傷など、身体への衝撃が主な原因と考えられる。症状は頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気など。患者自身の血液を硬膜の外側に注入して漏出部位をふさぐ「硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)」と呼ばれる治療法があり、先進医療に指定されている。ただし、現在は健康保険の適用対象外のため、数十万円にも上る治療費は全額自己負担になる。

 ◆森永 淳(もりなが・じゅん)1981年(昭56)1月1日、佐賀県生まれの34歳。00年5月にボートレースからつでデビュー。佐賀支部所属の86期生で、同期には中野次郎、吉田俊彦、柳沢一らがいる。SGは1優出0V。G1は5優出1V。通算29V。1メートル59、49キロ。血液型A。

 ▼峰 竜太(佐賀支部の後輩)僕らには見せないが、淳さんが苦しんでいるのが分かる時がある。「辞めなければいけないかもしれない」。そんな弱音を聞いたこともある。そういう状況で走っていることが凄い。僕にはできない。そんな中で、とてもピュアにレースに向き合っている。だから成績がいいのかもしれない。今回、一緒にSGを走れるのが凄くうれしい。師匠と思えるくらい好きな先輩なので一緒に優勝戦に乗れたら最高。

 ▼三井所尊春(佐賀支部の後輩)凄いメンタル力の持ち主。プロ意識も高い。バケモノですね(笑い)。本当にボートを愛していることが伝わってくる、素晴らしい先輩。僕も近づけるように見習いながら頑張りたい。

 ▼深川真二(佐賀支部の先輩)姿勢が非常に前向き。彼とは、よく電話で話すが彼の方から病気のことに触れたことは一切ない。だから僕もそのことには触れない。強いメンタルでレースに臨むだけ。ダービーで一緒に走れることはうれしい。変わらぬ姿勢でともに頑張りたい。

続きを表示

この記事のフォト

「ディープインパクト」特集記事

「新潟2歳S」特集記事

2015年10月20日のニュース