JKA吉田新会長 ファン歴45年“経済界の達人”がペダルをこぎ出した

[ 2015年7月27日 05:30 ]

笑顔でインタビューに答えるJKAの吉田和憲会長

 経済界の達人が競輪界のトップに立った。競輪、オートレースを統括する公益財団法人JKAは6月末、豊田自動織機相談役・吉田和憲(68)の新会長就任を発表した。スポニチ本紙は今回、新会長に独占インタビュー。競輪歴は何と45年。世界のトヨタグループで培ってきた信念を基に輪界をどう立て直すか、熱い心情を語った。

 ――競輪歴45年。会長就任の話があった時、素直な心境は…。

 「いやだと…。車券を買えなくなることもあるんだけど昨年6月に、前の会社(※注(1)豊田自動織機)を引退して全部、周りの団体の役職も全て辞めて、全くのフリー。ウイークデーは悠々自適の生活に入ったんです。自転車で図書館や買い物へ行ったり、週1、2回競輪にゴルフ。仕事やろうという意志がまったくなかった」。

 ――それが一転して、しかもJKA会長職オファー。

 「トヨタグループの周りの先輩が、いろいろ言ってくるもんでね。俺が1年近く、悠々自適にやっているんが分かってきて、周りの先輩はまだ役職持っていて言ってくるんですよ。“世のためにならな、いかん。働けっと。お前がね、珍しい改善(トヨタグループの発想の根幹)とか続けて、会社でもグローバルで通用する力があるんだし、お前が、ひと肌、脱がないでどうするんだと。競輪、つぶれていいのか”って言われて、うまいこと脅されてね(笑い)。昔からサラリーマン生活始めてから企業戦士のように戦ってきて課題とか問題に逃げないでやってきたので大好きなんですよ。性分もあってね。厳しい競輪、オートレースの業界で最後のご奉公と思って、火中の栗を拾いにいくかと…」

 ――現在はJKA会長ですが、ファン目線だったころに起き、昨年収拾した選手会騒動(※注(2))についてお聞きしたい。

 「ボクら民間で企業経営をやっていた人間としてはどうして?と。彼らは個人経営で、なぜ訴えなアカン事態になったの。トラブルになる前に吸収せなアカンのにね。あんなことしないように、組織が働かないとアカン。意思の違いが起きて、あそこまで起こったわけだから。片側の選手ばっかりに何か罪をかぶせるばっかりで。ファンを馬鹿にしとるがね。まさか俺が会長になるとは思っていなかったけど(当時)どうあったか知りませんが、ヒドいなと。ファン目線を度外視した結果ですから。大事にしないといけない肝心なことを忘れては、発展は望めない。運営存続そのものが危ないと…」。

 ――同感です。

 「今ね。お客さま相談窓口に来ているご意見、苦情を全部、見ている。やっぱり、ファンの方は真剣。ボクと似たように競輪を楽しみにしていて、うまくやってくれと。建設的な意見も多い。われわれ関係者、選手も神聖な職場として一生懸命ファンに向かってやっていかな、いかんと思います」

 ――今の競走形態、ルールも昔と比べて変わってきましたが、どう感じますか。

 「会長目線でもファン目線でもスリリングなレースを期待したい。そういう運営が基本。トヨタグループの中で基本的な考え方は何かというと“人間尊重”。競い合って進化していく。どこの世界もね。選手も安全第一だけど、迫力あるレースの中で腕を上げる。競走の面白さを伝える。さらに激しく戦い合うという形は残していきたい。失格判定もデジタルで、もっと早く判定できるように、ツールを使ってね。まだ旧態依然としたものが残っている。とにかくファンがガッカリしないように…」。

 ――現在の選手数は昔と比べて少なくなり、売り上げ面でも…。この点について。

 「選手は40何年前、4500人近くいて今は2500~2600人。売り上げも年間、昔2兆円近くまであって、今は約3分の1。競輪もオートレースもシュリンク(小さくなる)してきたんで運営サイドも全体の体制、選手自身のいろんな対応もね。急激に下がってきたんで、それにまだ沿っていないという不具合もある。そういう意味で選手も我々も、まだ体制のシュリンクした中で、どうやってうまくやっていくか。これから考えていきたい。効率のいい、質のいい、強い体制づくり。今の規模に応じたやり方で模索すれば必ずできると思っている」

 ――JKA幹部の方には…。

 「一から出直しを図る。ゼロからやると…。私の任期は2年。2年は最低限やっていくので、あなた方もギブアップして俺に付いてこいと言ったばかり。方針管理ということで。常に改善を続けることで、組織のスリム化だとか改革はできるよと。スパイラル・アップ(継続的な改良)、PDC(データを管理)を回してね。後退せず前進する。言われたことをやっているのではなく、皆さんで自立の精神を持って自らの行動で問題を見付けて自立制のある人間に育ってほしい。とにかく元気で明るくやろうやと…」。

 ――競輪とは…。

 「競馬、ボート、パチンコは面白いと思わないんですよ。麻雀はやりますが、競輪、何でこんなに好きかというと、競輪はドラマをプロデュースできる。自主、自立、参画型で自分が監督になれる。いろんな選手、競輪場のキャラクターを知れば知るほど映画や本を読むよりも面白いん、決まっとるがね。初めは詳しい方に本場に連れて行ってもらってね。人生、より深く楽しむ意味で競輪、オートレースをやってほしい」

 ◆吉田 和憲(よしだ・かずのり)1947年(昭22)2月18日、福井県生まれの68歳。東京大学農学部卒業。81年、株式会社・豊田自動織機製作所に入社(現・豊田自動織機)。同社取締役副社長、副会長を務め、14年相談役に。15年6月、JKA会長就任。23歳で競輪と出合い、キャリア45年の大ベテラン。車券は穴党で本場や名古屋のサテライト(場外発売)にも、よく足を運んでいた。

 ※注(1) 本社は愛知県刈谷市、1926年創業。トヨタ自動車の源流。自動織機のシェア世界No.1。

 ※注(2) 13年12月末、競輪トップクラス18選手が新選手会(SS11)を発足すると発表。一方、選手会は「規則を乱した」とし除名するとしたが、翌年、新選手会(SS11)側が撤回、謝罪した。その後、中心選手に1年間の自粛休場勧告が決定したものの、ファンや各関係団体から期間短縮の要望があり、一部選手の処分を軽減した。

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